他者の尊厳を守ることで自分も守られる
だからこそ、「手放す」ことが人生の選択肢になるとしても、次のような感覚だけは、最後まで持ち続けてほしいのです。
自分の存在は、だれにも軽んじられてはならない。
それ以外は、あとはたいしたことがないと割り切ってしまえれば、心が軽くなります。
ここで重要なのが、自分の尊厳を守りたいなら他者の尊厳も守るという姿勢です。
たとえば、よかれと思ってこんな言葉をかけることは逆効果です。
「心配だからやめたほうがいい」
「危ないよ、それ」
「どうせやっても意味がないよ」
「うまくいくはずがないって」
愛情や善意からの忠告にも思えますが、これらの言葉には、「あなたには判断力がない」「あなたには無理だ」というメッセージが込められていることも少なくありません。
もし私たちが、自分の意思や選択を尊重されたいと思うなら、他者の選択や挑戦にも敬意を払い、尊厳を守ることが必要です。
「あなたはどうしたいの?」
「応援するよ」
「何かあれば手伝うよ」
といった関わりのほうが、信頼を育み、自分自身の尊厳も守られます。
「雑に扱われていない」という安心感はあるか
そもそも、人間の尊厳とは何でしょうか。
「尊厳を守る」というのは、個人の存在や価値を尊重することです。その人が自分らしく生きることを支えることを意味し、いま介護の現場でも利用者の尊厳を守る配慮が求められています。
たとえば次のような、ほんの小さな場面にも尊厳は表れます。
・話しかけたとき、目を見てちゃんと返事をしてくれる。
・身体が不自由でも、「どうしたいですか?」とこちらの意思を聞いてくれる。
・年齢に関係なく、「あなたの意見を聞きたい」といってくれる。
・失敗しても、「あなたには価値がある」と信じてくれる。
こういう瞬間、人は「自分はここにいていい」「ちゃんと存在している」と感じられるものです。
買い物で洋服を見ていたら、店員が自然に声をかけてくれたり、あるいはメガネを買いに行ったとき、店員がこちらの希望を丁寧に聞いて最適なものを提案してくれたり。
そんなとき、とてもいい気分になります。それは、あなたの“尊厳”がちゃんと守られたからです。
「自分は一人の人間として、大切に扱われている」と無意識的に感じられたからです。
丁寧な言葉づかいは、「雑に扱われていない」という安心感を与えます。目線を合わせて説明してくれると、「自分に寄り添ってくれている」と感じます。こちらのニーズをくみ取って提案してくれると、「自分のことをきちんと見てくれている」と思えます。

