脳内物質まで変える「思い込み」
多くの人がこの患者のように、考えや言葉、他者の行動に対して身体と心が反応します。身体の反応には、薬並みに強力な化学変化が関与しています。たとえばPETスキャン研究では、悲しいことを考えた場合とうれしいことを考えた場合とで、脳内の化学物質が変わることがわかっています。
そして腹が立つことを考えると、わたしの患者のように身体症状が出ることもあります。同じように、ある薬が病気の不快な症状に効くと強く信じれば、その思い込みだけで脳内の化学物質が変わるのです。ただし、その変化によって治るかどうかは、病気の性質や重さによります。薬、偽薬、奇跡にはさまざまな説がありますので、惑わされないようにしてください。
いくつになっても進化する脳
実際に、脳に関するあらゆる新しい研究によって、今何歳であっても脳を改善するのに遅すぎることはないと示されています。というのも、脳は他の臓器とは違うからです。肝臓、肺、腎臓は一定の年数がたつと衰えますが、脳は使えば使うほど活発になります。まさに、使うことでよくなるのです。
さらに脳細胞の機能の性質は、経験によって成人してからも生涯変わりつづけます。どうして、そんなことがわかるのでしょう? それは、サルによる実験と、人間の点字学習における脳画像検査で明らかになったからです。
神経科学者たちはサルの脳で、指の刺激に反応する大脳皮質の部位の大きさを測定しました。まず、サルにある作業に特定の指を使うよう教えこみ、その作業を数千回繰り返させます。すると、その指に対応する脳細胞の数が、使っていない細胞を犠牲にして増えることがわかりました。
使い方に応じたこの改良は人間の脳でも行われ、しかも一生続きます。たとえば目が不自由なため点字を読む人の脳でも、サルの実験で測定したのと同じ部位が大きくなります。それは時とともに指先が、字を表す点のパターンのかすかな変化を精密に感じとれるようになるからです。
さらに興味深いことに、指先からの刺激を受け取る脳部位の活性は短期間で変化します。たとえば、週末に点字を読むのを休むと、その部位が小さくなります。そして、また読みはじめると再び大きくなるのです。


