歌声にあわせて、部屋を1時間歩き続ける

食後の運動というがストレッチとかではなく、歩くだけ。それも1時間も。12畳間で大卓すなわち大きめのテーブルの周囲を、大人も子供もずっと歩いているというのはなかなかシュールな光景だ、しかも歌付きである。

一雄によれば、歌はいつも、上手な書生の玉木光栄が歌っていたという。この人はセツの従姉の子供で13歳から18歳までを「食客」として過ごしていたという。第一高等中学校から、農業大学(注:帝国大学農科大学、現在の東京大学農学部)に進んだというから、なかなかの逸材……当時でいえばけっこうなエリートである。

そんな青年の歌声に合わせて、子供や女中、書生が1時間も部屋の中を歩き続けるのだ。とても食後の軽い運動とは思えない。