“間抜けに倒される愚将”と描かれてきたが…

とにかく龍興は、時代を超えて、今川義元に続いてヒーローである信長や秀吉のために、間抜けに倒される愚将として再生産されてきたというわけである。

この流れが変わってきたのは21世紀に入ってから。おそらくもっとも再評価のきっかけを与えたのは宮下英樹のマンガ『センゴク』であろう。後半は歴史資料を駆使した硬派な作風となった作品だが、前半から登場する龍興は、稲葉山城を追われた後に突如覚醒、謀略家として暗躍し信長を苦しめ続ける強敵として描かれている。

これ自体はフィクションなのだが、この作品が「龍興もそんな愚将ではないのでは?」と読者が一歩立ち止まる機会を与えたのは間違いない。

実際、生涯をみると龍興は愚将とは言い難い。なにしろ、父の義龍が急死し家督を継いだのは14歳である。この年齢で家督を継いで家中をまとめるのはなかなかの困難。しかも、義龍が病死間近という情報を得た信長は、いきなり美濃に侵攻を始めている。

企業経営に置き換えるとこうだ。創業者の祖父(道三)が作り上げた会社を、父(義龍)が34歳で急死したために14歳で引き継いだ。しかも父の死の情報をキャッチした競合他社(信長)が、葬儀も終わらないうちに市場を奪いに動き出した。

斎藤龍興の浮世絵
斎藤龍興の浮世絵(写真=落合芳幾「太平記英勇伝」/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

“組織”の内情はグチャグチャ

しかも、この会社は三代続いたとはいえ内情はグチャグチャだ。だいたい、創業社長は息子にクーデターを起こされ、殺されたようなもの。

そもそも、創業社長も強引に顧客を奪ったり合併を繰り返して大きくなったから、社内に派閥はあるし、機会があれば顧客名簿を持ち出して独立を企む役員が何人もいる。そこに、14歳の息子が「え〜父が亡くなったので、ボクが後を継ぐことになりました……」と挨拶しているわけである。

とはいっても、会社なのだから存続するために若い後継ぎをサポートするだろうなんて考えは甘い。お気楽な令和の発想だ。現代社会でも、カリスマ社長が急死した途端に会社が潰れるケースは珍しくない。戦国時代であればなおさらだ。

だいたい三代続いたところで家中の気質はずっとベンチャー。だから「今こそチャンス‼」と部下に声をかけて独立を画策する者。あるいはライバル企業に転職を考える者。はたまた、社長を交代させて乗っ取りを企む者まで。役員会も荒れて社内の空気も最悪。あっちこっちで社員が「俺も辞めようかな〜」なんて声も聞こえてくるような中で、資本力で乗っ取りに来たのが織田産業。それも、弱り目に付け込むハゲタカファンドのように……。

ともすれば、明日にも滅亡する最初の危機を、弱冠14歳の龍興はなんとか乗り越えている。