人類は「新しい力」をコントロールできるか

本稿の冒頭で引用した「強者はできることを行い、弱者は耐えねばならない」というトゥキュディデスが描いたメロス対話でのメッセージは、力の論理の冷酷さを示すだけの話ではない。そこにはもう一つ重要な教訓がある。

アテネは圧倒的な力を背景に合理的な判断をしているつもりだった。しかし歴史は、そのアテネがやがて戦争の中で衰退していく姿を描いている。力を持つことと、その力を正しく使うことは、決して同じではないのである。

オーストリア議会議事堂と哲学者トゥキディデスの像
写真=iStock.com/vladacanon
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人工知能をめぐる現在の対立も、同じ問いを私たちに突きつけている。国家は安全保障のためにAIを必要とし、企業は技術の発展を追求し、倫理は人類社会の安全を守ろうとする。その三つの力の間で、いま世界は揺れている。

しかし、一つだけ確かなことがある。AIはすでに単なる便利な技術ではない。それは戦争、政治、経済、社会のすべてに関わる新しい力になりつつある。

だからこそ、いま問われているのは「どのAIが優れているのか」という問題ではない。

人類は、この新しい力を本当にコントロールできるのか。

もしそれができなければ、未来の歴史家はこう書くかもしれない。

人類は、初めて自ら生み出した「知能」という力を手に入れたが、その力を統治する準備ができていなかった、と。

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