“一点集中思考”からの脱却
私が最も危惧するのは、日本の消費者に根強く残る「一点集中思考」だ。
「マイホームは人生で一度の買い物」「35年ローンを組んで、定年まで返し続ける」――これらはすべて、高度経済成長期に最適化された価値観だ。人口が増え、経済が成長し、終身雇用が保証されていた時代の成功モデルなのである。
しかし、2026年の日本で、その前提はすでに崩壊している。
にもかかわらず、湾岸タワマンに2億円のローンを組む人が後を絶たないのは、「成功のロールモデル」がアップデートされていないからだ。マーケティング的に言えば、消費者のメンタルモデルが、時代の変化に追いついていない。
小嶋氏の提案は、単なる「アメリカ不動産を買え」ではない。
「リスクを分散せよ」「選択肢を増やせ」「一つの国、一つの通貨、一つの資産に依存するな」という、極めて現代的な生存戦略だ。
これは超富裕層だけの話ではない。
年収1000万円でも、400万円でも、考え方次第で応用できる。
まずは円とドルの両方で資産を持つ。日本と海外の両方に関心を持つ。一つの会社だけに依存しない働き方を模索する――小さな分散の積み重ねが、人生のレジリエンス(回復力)を高めるのだ。
メディアに踊らされてはいけない
湾岸の億ションを眺めながら、アメリカンドリームを語る男。その視線の先には、東京湾ではなく、太平洋の向こう側が見えているのかもしれない。
35年のマーケティング経験から、思うことがある。
湾岸タワマンは、まさにメディアが煽り、芸能人が住み、インスタ映えする夜景が拡散され――その結果、「成功者の証」という記号が流通した典型だ。
小嶋氏が提示したのは、その記号の“賞味期限”にほかならない。人口減少、災害リスク、修繕費高騰――これらのファクトは、すでに見えている。にもかかわらず、多くの人が「まだ大丈夫」と信じている。それは、変化を認めたくない心理と、沈没船から降りられない集団心理が働いているからだ。
自分の頭で考えて選んでいるか。それとも、“誰かが作った物語”に乗せられているだけではないか?と問いたい。
「記号消費」を批判しているわけではない。だが、その記号を、ポートフォリオの一部として配置している富裕層と、湾岸タワマンという記号に、人生のすべてを賭けている日本の中間層は、同じものを買っていても、その実は全く異なるということだ。この差は、資産の多寡ではない。思考の柔軟性と、情報の非対称性だ。
「あなたの視線の先には、何が見えているか」
東京湾を見ているのか。それとも、太平洋の向こう側まで見渡しているのか。
「あなたは、自分の人生を豊かにする住まいは、その答えを映す鏡だ。あなたが選ぶ家は、あなたが選ぶ未来そのものなのだから。


