「退学」で問題解決?

数日後、あらためて古川教頭から報告があった。担任が弓岡さんの母親と面談したところ、彼女は中学時代にもクラスで同様のトラブルを引き起こし、それが原因で通学しなくなったらしい。

さらに、担任が弓岡さんの母親に今回の事態を伝えると、「わかりました。ではこちらで対応しますので退学させてください」と即答されたのだという。報告を終えた古川教頭が言った。

「最近は彼女のような人をクラッシャーと言うらしいですね……。でも、これで1年生のクラスも落ち着くと思います」

しかし、“クラッシャー”である弓岡さんを退学させることが解決といえるのだろうか。

実際、弓岡さんからはその後まもなく退学願が提出され、私は校長として退学を許可(※2)した。弓岡さんが去ったあと、クラスは落ち着きを取り戻したという。

“解決”とはいったい何か。今もまだ結論は出ていない。

階段の踊り場に一人で立っている女子学生
写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA
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※2 退学を許可
退学しようとする者は理由を明記したうえで「退学願」を提出。その理由を適当と認めるときは校長が退学を許可する。なお、「不適当」とは、学校側がその生徒に対して退学処分を進めていて、生徒が処分を免れるために自ら退学しようとしている場合など。退学を許可した場合、校長はその旨を教育委員会に報告する。

「いじめ」と「いじり」の境界線

ある日、体育の授業前の教室での出来事だった。

1人の男子生徒が教室に忘れ物を取りに来ていたところに、体調不良を訴えて保健室で休んでいた女子生徒が戻ってきた。体育の授業を休むことになっていた女子生徒に向かって、男子生徒が「おいっ、さぼるんじゃねーよ!」と怒鳴った。

女子生徒は腹を立て、そのことを担任の教諭に報告した。

「W君に突然めっちゃ強い口調で怒鳴られたんですけど。私、サボってないし、すごくむかついたんで、先生、W君を注意してくれませんか?」

いじめ防止対策推進法(※3)第2条では、いじめとは「児童等が在籍する学校において、一定の人的関係にある他の児童等が行う行為であり、心理的または物理的な影響を与え、対象となった児童が心身の苦痛を感じるもの」と定義されている。

つまり、同じクラスの男子生徒が「さぼるんじゃねーよ!」と言ったことにより、言われた側の女子生徒が精神的苦痛を感じた場合、法律上の「いじめ」に該当するのである。

※3 いじめ防止対策推進法
2011年の「大津いじめ自殺事件」など深刻ないじめ事案が相次いだことをきっかけとして、2013年に施行された。学校・家庭・地域・行政が一体となっていじめ対応するための基本的枠組みを定める。この法律で定める「いじめ」の定義は社会通念上の「いじめ」よりもきわめて幅が広い。