いじめの報告が多いほどエライ
たとえ軽微なものであっても報告しなければ、「隠ぺいしている」と見なされる。担任の教諭は槙野教頭に伝え、槙野教頭から「いじめ事案」として私へと報告があがってきた。
「いじめですか。男子生徒と女子生徒の関係はどうだったのでしょうか?」
「2人はわりと親しくて、ふだんは軽口を叩き合う間柄のようです。男子生徒としては、彼女がさぼったものだと勘違いして思わず口調が強くなってしまったらしいのです」
槙野教頭の話によると、関係性のある中でのちょっとしたいざこざにすぎない気がした。ただ、こうした事案について「これくらい大丈夫」などと勝手に判断し、文部科学省へ報告をあげなければ、「もみ消し」などと見なされないとも限らない。
いじめの認知件数は年度ごとに各学校から教育委員会に、そして文部科学省に報告され、その結果が都道府県一覧となってマスコミなどに公表される。
報告件数が少ないとどうなるか。いじめが少なくて素晴らしい! ……と褒められることはなく、隠ぺいを疑われるのだ。当時、九州の某県が2年連続で“最低(※4)”になり、厳しく批判されていた。このため、本県においても、いじめの発生については積極的な報告が教育委員会により“奨励”されていた。
学校としては再度、状況を確認したうえで、正式に「いじめ」と認定し、文部科学省へ報告する「発生件数」にカウントした。
私たちは生徒2人に対し、こうした発言でも「いじめ」に該当すること、そして文科省に報告されることを説明したうえで男子生徒に謝罪をさせた。
学校の対応が予想以上に大きくなったことに2人とも驚いていたらしい。
※4 2年連続で“最低”
当時、児童生徒1000人あたりの「いじめ認知件数」は全国平均が40.9人だったのに対し、某県は9.7人で全国“最低”だった。
専門業者がネットパトロールを実施
ある日、インターネットパトロール業者から私宛にメールが入った。
〔令和×年×月×日、午後10時ごろ、SNS(※5)「Facebook」上にて、貴校生徒とみられるアカウントでの特定生徒に対する誹謗中傷投稿を確認しました。
【投稿内容】特定生徒の動画について『デカすぎ』『巨人』『(笑)』等の記載。発信内容には侮辱的表現が含まれ、学校関係者が特定できる形での人格否定的投稿であるため、「いじめ防止対策推進法」第2条における「心理的な影響」に該当する可能性があります〕
最近では珍しくなくなったが、本県教育委員会では、専門業者に依頼してインターネットパトロールを実施している。パトロール業者が「問題事案」を見つけると該当する高校の校長宛にメール連絡が入るシステムだ。私はすぐさま槙野教頭に相談し、担任教諭とともに生徒を特定した。
私もその投稿を見たが、同級生たちが公園で飛び跳ねながら戯れているもので、その中で一番長身の生徒について「デカすぎ」「巨人」などの手描き文字が添えられていた。私の目からすると、ふざけ合いながら一番高くジャンプした生徒を囃しているだけで「いじめ」のニュアンスなど微塵もない。
※5 SNS
あるとき、定時制の古川教頭が報告に来た。生徒が授業中の様子をSNSのストーリーに投稿していたという。映像には女子生徒3人が教室の自分の席に座りながらカメラに向かってVサインをし、その背景に教員が授業を進めている姿が映っていた。ネット上の映像はすでに消えていたが、教頭が生徒を職員室に呼び出し注意した。いまやこうしたSNS対応も教職員の仕事の一環である。

