SNSが生んだ大量の悪徳自称「ジャーナリスト」
地元警察の記者会見に集まった他社の記者と雑談をした。「信憑性がない話をする人が多い」。私がため息をつくと、別の記者も眉をひそめた。「ハイチ人が切った豚の頭を道ばたに捨てている、という発言もあった」
人間は必ずしも本当のことを言うとは限らない。悪意を持って嘘をつく人もいる。サービス精神から事実を誇張して話す人もいる。完全な妄想を語る人もいる。それを記者は経験上、知っている。だから、複数の人を取材して裏取りをする。物証を取る。嘘だと思ったら書かない。根拠がないことは書かない。記者は疑わしい情報をはじいて事実を抽出する濾過器の役割をしてきたのだ。だが、このシステムは崩壊した。
目の前で偽情報が生まれていた。隣州ケンタッキーから来たという若い男性が「男がカナダガンの死骸を手に持って歩いているのを見た」という白人女性(30)の話に食いついていた。「YouTubeを始めたばかりなんだけど、事実を確かめようと思ってここに来た。家に一緒に行ってもいい?」
横で聞いていた私は目を剝いた。白人女性はハイチ人や中南米系移民への醜い差別発言を続ける。物証がない限り、この女性の発言内容はとても使えない、と感じた。でも、このユーチューバーは真実などこれっぽっちも気にしないかもしれない。
アクセスが増えるほど金が入るXやYouTubeの仕組みは、偽情報を生み出すインセンティブになっている。
インフルエンサーが拡散した“便所の落書き”
スプリングフィールドの犬猫騒動の発端は、住民のフェイスブックへの投稿だ。「ペット好き注意! 近所の人に言われたのだけど、彼女の友人の娘の友人の飼い猫がいなくなった。(中略)ある日、近所に住むハイチ人がその猫を木から吊り下げ肉を削いで食べていた。やつらは犬も食べるんだって。アヒルやカナダガンも」
この“便所の落書き”のような投稿を拡散する役割を担ったのは、Xを所有する起業家イーロン・マスクや、MAGAに人気の新興右派メディア「リアル・アメリカズ・ボイス」で番組を持つチャーリー・カーク(25年9月に暗殺される)ら右派インフルエンサーだ。
マスクは「ハイチ人がオハイオの町を破壊し、ペットを殺して食べていると伝えられている」というXの投稿に、「あんたの近所にもこれと同じことが起きてほしいなら、(民主党候補の)カマラに投票しろ」と書き込みをして、リポストした。カークも自身の番組で「ハイチ人が彼らのペットを食べている、と住民が報告している」と伝えた。スタッフを現地に送って住民が「証言」する動画までつくった。
右派インフルエンサーたちは、オハイオ北部カントンで猫を食べたとして逮捕された黒人女性の動画も拡散した。「おまえ、その猫を食べたのか」。動画の中で警官が女性に尋ねている。女性は放心した表情で地面にひざまずいている。しかし、この黒人女性はアメリカ人で、スプリングフィールドのハイチ移民とはなんの関係もない。

