東京都知事選での石丸ブーム、二馬力の虚偽情報で自殺者まで出した兵庫県知事選挙、虚偽情報や誹謗中傷もまじるSNS選挙の問題点は、何度も指摘されてきた。虚偽情報が拡散されるだけではない。たとえそれが「真実」であっても、特定の政党や候補者に関する情報が、圧倒的な情報量で拡散されることの影響は小さくない。

しかも、SNSの課金システムによって、政治的な動機とは関係なく、「バズれば儲かる」と真偽不明の情報がネット上にあふれる事態にもなっている。

繰り返し同じような情報を受け続ければ、人はそれを信じやすい。その情報が拡散し増殖し続ければ、それを信じる人の数も幾何級数的に増えていく。

そしてその効果は、中道を壊滅的な敗北に追い込んだだけでなく、自民党内のリベラル派にも強烈なプレッシャーとして及んでいた。

標的になった石破氏

一番のターゲットになったのは石破茂前首相だった。

2025年10月21日、首相退任の日に花を受け取った石破茂
2025年10月21日、首相退任の日に花を受け取った石破茂(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

いつも通り、開票同時に当確を打ち出すテレビの「ゼロ打ち」で早々と当確を決めた石破氏だったが、今回はいつもと様相が違っていた。

選挙前から、参政党や日本保守党など強硬右派の支持者だけでなく、高市首相を推す右派からも、自ら「自民党のリベラル派」と称する石破氏を落選させようという動きが活発になっていた。ネット上では、「リベラル狩り」という過激な用語も登場した。

ここでいう「リベラル」の定義ははっきりしないが、中国に協調的な外交姿勢であることや高市氏が好む積極財政よりも財政規律を重んじる立場を言うようだ。ようするに「サナエの敵」はみなリベラルか、反日サヨクなのだ。参政党の神谷宗幣氏も公然とリベラル狩りを肯定するような発言をしていた。

これに対して、当選を決めた石破氏は、さっそく圧勝した高市首相への苦言を呈した。

「選挙で大勝したからと言って白紙一任なんてことにはならない。党内の意見や他党の考えを謙虚に聞いていくことが大事だ」

「リベラルというのは保守の本質だと思っている」

こう述べた石破氏は、さらに本来の自民党こそリベラルなのだとも言い切っている。

「自民党というのは英語で『リベラル・デモクラティック・パーティー』。リベラルということも自民党の存在意義のひとつですから、そこを否定されるのは自民党を否定したに等しい。リベラルというのは保守の本質だと思っている。他者の主張に謙虚に耳を傾け、おのれの足らざるところを直していく。それがリベラルであり、保守だと思っている。それを否定されるということに対しては断固戦わねばならない」

自民党内のリベラルの灯は消さない、という決意表明である。

石破氏の側近で、外相を務めた岩屋毅氏も中国人観光客向けのビザ発給の緩和を表明したことから、ネット上では媚中びちゅう政治家のレッテルを張られた。

岩屋毅
岩屋毅(写真=アメリカ合衆国国務省/PD US DOS/Wikimedia Commons

選挙区の大分3区には、リベラル狩りだと、参政党の候補や参院選・東京選挙区で24万票を獲得した無所属候補が参戦した。

「根も葉もない誹謗中傷が繰り返されている」「自由闊達かったつ侃々諤々かんかんがくがくに議論できるのが、本来の自民党だ。人を攻撃することが政治ではない」と防戦一方の選挙戦となったが、なんとかこれを跳ね返した。

ただ、石破氏の得票は6万6000票あまり。前回から約4万票も減少した。大雪で鳥取県の投票率が大幅に低下したとはいえ、厳しい結果だ。岩屋氏も、相手候補に約7000票という僅差にまで迫られていた。リベラル狩りの効果は決して小さくなかったのだ。