イヤな刺激に対する反応が強くなる

断眠すると情動面でどんな変化があるのかを調べるために、断眠したときと普通の状態の脳の反応を比較したのが、ハーバード大学メディカルスクールのヨー博士らのグループです。彼らは、被験者に100枚ぐらいの写真を順番に見てもらいました。風景やクルマなどの普通の写真の中に、動物の死体やゴミの写真など、誰が見ても少しイヤな気持ちになる写真を混ぜておき、その瞬間の脳の反応を計測しました。このように、嫌な刺激が入ると、私たちの脳の扁桃体が、無意識的に反応します。この実験を、ちゃんと寝ている人で行うと、扁桃体は軽く反応するだけでした。しかし、前の晩に睡眠を4時間以下にしてもらって睡眠不足になっている人の場合は、扁桃体が非常に強く反応することがわかりました。イヤな写真を目にして反応するといっても、意識にのぼる反応ではなくて、200ミリ秒ぐらいの短い時間に扁桃体が活性化するという無意識の反応です。

テーブルの上に並べられた写真
写真=iStock.com/FilippoBacci
※写真はイメージです

無意識レベルで扁桃体が反応した後で、500ミリ秒くらいすると、私たちにはイヤな気持ちが生じるのです。ですから、この反応を意識的に止める、つまり、嫌に思わないで我慢することはできません。

ではなぜ断眠すると扁桃体が強く反応するのでしょうか。同じ研究で、睡眠不足の人では大脳皮質の中でも前頭葉の働きが弱まっていることも示されました。

寝不足の人がキレやすい理由

前頭葉は「脳の社長さん」と呼ぶ研究者もいるように、脳の中でも中心的な働きをしています。しかし、すべてを取り仕切っているタイプの社長さんではなく、基本的には常にブレーキをかける、つまり、常に「結論を出すのは、ちょっと待ってよ」というタイプの社長さんです。

粂和彦『脳がないのにクラゲも眠る 生物に宿された「睡眠」の謎に迫る』(朝日新聞出版)
粂和彦『脳がないのにクラゲも眠る 生物に宿された「睡眠」の謎に迫る』(朝日新聞出版)

どういうことかというと、私たちの脳は前頭葉がなくてもほとんどすべてのことができます。耳から何かを聞いてそれに対して答える際に、前頭葉がなくても頭頂葉や側頭葉だけで回答することができます。例えば「あなたはカレーが好きですか」と質問されたとして、「はい」と答えられます。でも通常は、いきなり答えたりしません。「野菜カレーは好きだけど、マトンカレーはちょっと苦手だな」とか「好きでも毎日ってほどじゃないな」などとあれこれ考える。その間、「答えずにもうちょっと待って」とブレーキをかけているのが社長さんである前頭葉なのです。

ところが睡眠不足になると、この社長さんが疲れて寝てしまうのですね。すると、入ってきた情報を吟味もせずに、即反応してしまうのです。誰かにちょっとイヤなことを言われたとして、睡眠が足りていたら、前頭葉がブレーキをかけてくれている間に少し考えて、「それは自分のことを思って言ってくれたんだ」とポジティブにとらえたかもしれないのに、寝不足だと、ほぼ反射的に、「なんでそんなこと言うんだ!」とネガティブにとらえて、すぐ反応してしまうかもしれません。これが睡眠不足でキレやすくなるメカニズムの一端です。

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