いつも母親だけが矢面に立たされる

石黒氏は言う。

「憲法13条の幸福追求権に含まれるプライバシー権です。家族や友人に妊娠を知らせなかったことを咎める感情が社会に潜在意識としてあるとすれば、それは彼女のプライバシー権を無視したことになります。本来、自分の生殖に関する情報を誰に明かすかは本人が選択でき、妊娠・出産の事実を隠していたことを罪と捉えるべきではありません」

産婦人科を未受診だったことにペナルティを与える意識が逮捕の判断に加勢していたとしたら、感情論でしかない。石黒氏によれば、妊娠中に医療機関を受診しない女性を罰する法律はないからだ。

「未受診の女性には、匿名で安心して相談し、名前を伏せて出産することも選択できるなど、社会が提供するべき支援サービスが不足している、むしろ問題視すべきはこの点でしょう」

妊娠には男女二人の当事者がいるが、女性のみが絶望的な恐怖と痛みと罪を負わされる、それが孤立死産だ。当事者女性には被害者の側面が少なからずある。未受診による孤立死産女性は、罰せられるのではなく保護されるべき人たちだということだ。

事件がどのように動いても、出産直後の女性を長期間にわたり拘束し続けるという、産む性の尊厳が痛めつけられた事実は、赤ちゃんの死因とは関係なく残り続ける。

孤立出産を知らない人が法廷で証言

蓮田氏は孤立出産殺害遺棄事件の裁判支援に携わっている。4件について意見書を書き、12件について弁護側証人として法廷で証言した。私はそのうち7件の公判を傍聴した。

思い出される裁判がある。検察は検察側証人として、孤立出産症例について経験のない産婦人科医を呼んでいた。

赤ちゃんの遺体の司法解剖を行った鑑定医は死因を「不詳」とした。この判断からは、死後相当な時間が経過して腐敗の進んだ遺体から明らかにできる事実には限界があることがわかる。

ところが、検察側証人の医師は「生きて生まれたのちに死んだ=殺人」という検察のストーリーを成立させるために、考えられるさまざまなケースを挙げた。

データとエビデンスに基づいて判断をするはずの医療者が、こと未受診で孤立出産した女性が対象となると、「わからない」ことを「わからない」といわず、医学的根拠に欠ける不確かな証言を重ねたのだ。