女性の行為は「遺体の隠匿」なのか?
女性は死体遺棄罪でも起訴された。
だが、孤立死産による死体遺棄罪の最高裁判例では、赤ちゃんの遺体をタオルで包み、段ボール箱に入れて自室に置いていた行為が「遺棄」ではないという結論が出ている。2020年に熊本県で起きたベトナム人技能実習生双子死産事件だ。一審、二審では死体遺棄罪で有罪判決だったところ、2023年に最高裁が逆転無罪の判決を言い渡し、確定した。
この事件で弁護団の主任弁護人を務めた石黒大貴氏は、兵庫県警の「死体遺棄」の解釈に疑問を呈した。
「死体遺棄罪は、判例上、死体を隠匿することについても処罰の対象としています。死体が隠されることにより、死者が弔われることのないことになれば、死者に対する敬けん感情が害されると考えられているからです。一方で、何をもって死者に対する弔いといえるのかについては一律で決まるものではありません。そのため、最高裁は、形式的には死体を隠す行為であっても、それが習俗上の埋葬と矛盾する行為といえるかによって、遺棄の判断を行うとしています」
「女性が死亡届について記述したメールを赤ちゃんの死後24時間足らずで慈恵病院に送信したことを踏まえると、女性には、死産を届け出て、埋葬するつもりがあったといえますから、隠匿とは言えないのではないでしょうか。遺体の体液の流出を防ぐレジ袋や暗室のクローゼットといった環境は、死者を弔う上で必ずしも矛盾するものではありません」
埋葬の意思が確認できる以上、赤ちゃんの死亡から遺体発見まで2日半かかったのは結果論であり、死体遺棄罪の検討要件に該当しないということだ。
病院を受診しなかった女性への「罰」
女性の長期間にわたる拘留についても、性と生殖に関する自己決定権(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の観点から問題があると石黒氏は指摘する。
「女性は出産直後で、さらに赤ちゃんの死亡により精神的ダメージを受けているにもかかわらず、受けるべき医療的ケアがなされない状況を警察によって強制的につくられました。未受診だった事実に対して警察が科したペナルティであることは間違いありません。妊娠を相談しなかったことに対する『罰』ではないかということです。この対応は出産したばかりの彼女の尊厳を脅かしています」
こうした孤立出産事件では、なぜ家族に相談しなかったのかと女性が批判されることは少なくない。
だが、周囲に相談したかどうかは、死体遺棄容疑での逮捕の妥当性を高めることにはならない。女性が妊娠を誰にも相談しないことは権利として守られているからだ。

