3700万円のチョコレートドリンク
さらに極端な例がある。
ニューヨークの老舗レストラン「Serendipity 3」が提供した25万ドル(約3700万円)の「フローズン・ホットチョコレート」だ。
ただし、ここで重要なのは、価格の内訳である。CNBCの報道によれば、25万ドルの大部分は、宝飾デザイナーのロレイン・シュワルツがデザインした18Kホワイトゴールド製の指輪――ピンクのハート形ダイヤがあしらわれた一点物――の価格なのである。
つまり、これは「25万ドルの飲み物」ではない。「宝飾品購入という行為を、飲食体験という舞台装置で演出した」商品なのだ。プロポーズの瞬間を、最高級のホットチョコレートとともに演出する。その「体験」に25万ドルを払う人がいるということである。
日本にも同様の事例がある。ブルガリが販売する1粒1750円のチョコレートだ。
東京・ブルガリ銀座タワーの8階にある工房で、専属ショコラティエが一粒ずつ手作りする。海外の「100万円チョコ」や「3700万円の儀式」に比べれば桁は小さいが、本質は同じである。
価格の中身が「原料」ではなく、「場所」「職人」「物語」「宝石ブランドというラベル」で構成されているのだ。
本物の富裕層は「超高級チョコ」に興味を示さない
しかし、本当の富裕層は、高額チョコレートを「買う」ことにすら興味を示さない。
なぜか。それは、いくら高額であっても「買う」という行為が受動的だからである。真の贅沢とは、能動的に参加することなのだ。
その最たる例が、カリブ海の島国セントルシアにある「ラボット・エステート」である。
英国のプレミアムチョコレートブランド「Hotel Chocolat」が所有するこのカカオ農園は、単なる生産拠点ではない。世界中のチョコレート愛好家が訪れる「体験の聖地」となっている。
140エーカーの広大なラボット・エステートでは、その中の6エーカーのエリアで「Tree to Bar(カカオの木からチョコレートバーまで)」と呼ばれるプログラムが提供されている。
参加者はまず、ユネスコ世界遺産に登録されているピトン山を望む熱帯雨林の中を歩き、カカオの栽培について学ぶ。そして実際にカカオポッドを収穫し、発酵から乾燥、そして最終的なチョコレートバーの製造まで、すべての工程を自らの手で体験するのである。
「バレンタインにチョコを贈る」のではなく、「バレンタインにチョコの起源へ身体ごと入り込む」。この発想の転換こそが、富裕層的な消費パターンの本質なのだ。
コスタリカの「フィンカ・ラ・アミスタッド」は、さらに一歩進んでいる。95ヘクタールの農園の半分を高品質カカオに充て、農園内にチョコレート製造設備を完備。滞在者は自分で収穫したカカオから、その場でチョコレートを作ることができる。宿泊施設も農園内にあり、朝起きればカカオの木々が窓の外に広がる。チョコレートの「所有」ではなく、カカオ農園での「生活」そのものを体験できるのである。
そして、究極の形態が存在する。マダガスカル北西部のサンビラノ渓谷に広がる「ベジョフォ・エステート」だ。2000ヘクタールという広大な土地を所有し、単一プランテーションからのカカオでチョコレートを生産している。
ポイントは、ここでの「富裕層の気分」が、単なる「高価格」ではない点にある。「原料調達」ではなく「土地の所有」にまで降りていくこと。それこそが、本当の意味での「オリジン」への到達なのだ。
恋愛の贈り物が、いつの間にか「土地と起源の所有ゲーム」に変質している。この現象は、現代の富裕層消費を理解する上で極めて重要な示唆を与えてくれる。

