視界が良く、市街地でも扱いやすい
そして、それは偶然ではない。ホンダはF1レースなどさまざまなモータースポーツ活動で得た知見と経験を背景に、走行性能だけを極端に追求することもできた。しかし彼らは、「日常で扱えるMR」という矛盾ともいえるテーマに真正面から向き合ったのだ。
日常的な運転環境が考慮されたがゆえにミッドシップ車では異例とも言える広範な視界は、ドライバーの緊張感を和らげ、結果として高い運動性能を安全かつ快適に享受することを可能にした。視界の良さは、市街地での扱いやすさにも貢献している。
NSXの技術的な偉業のひとつに、量産車としては世界初のオールアルミ製モノコックボディの採用が挙げられる。これにより、車両重量はわずか1350kg(5MT車)に抑えられ、運動性能の向上に大きく貢献している。この軽量ボディにより、V6 DOHC VTECエンジンであるC30A型(最高出力280ps/7300rpm、最大トルク30.0kg-m/5400rpm 5MT車)のポテンシャルは最大限に引き出される。
MR車の運転には緊張感がセットだが…
C30A型エンジンは、ホンダのテクノロジーの結晶であるVTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)を搭載。低回転域では実用的なトルクと扱いやすさを、高回転域では吸気・排気効率の向上による爆発的な加速性能を実現している。
さらに、チタン製コンロッドの採用や、共鳴チャンバー容量切り換えインテークマニホールドシステムなど、当時の最先端技術を惜しみなく投入することで、自然吸気V6エンジンながら高回転域での爽快なフィーリングと耐久性を両立させているのだ。
このパワートレインと軽量ボディ、そしてMRレイアウトの組み合わせにより、NSXは卓越した動力性能と理想的なコーナリング性能を獲得している。
NSXの真価は、その「優しさ」にもある。これは、単に乗り心地が良いというレベルではなく、スーパースポーツカーでありながら、ドライバーにその高性能を押しつけることのない設計思想に由来する。
一般的な高性能MR車は、硬質な足回りやダイレクトすぎる応答性により、常にその「非日常」を主張する傾向がある。路面の段差一つ一つが強烈に伝わり、ドライバーは絶えず車体の挙動に神経を集中させなければならない。
しかし、NSXはダブルウィッシュボーン式サスペンションのセッティングにより、スポーツカーとしての楽しさを確保しつつも、不快な突き上げを巧みにいなす懐の深さを持つ。


