乗れば乗るほど好きになる、そんな車

NSXは生産台数が少なかったこともあり、現在中古市場でも希少車として扱われている。しかし、希少な理由は単に生産数が少ないからではないと考えられる。

その理由は、とにかくオーナーが「売らない」からだ。

所有欲を満たすだけの車はいくらでもあるが、乗れば乗るほど好きになって離れられなくなる車はそう多くない。高性能と実用という相反する要素が見事に両立した車だからこそ、所有者の心を掴んで離さない。

ホンダNSXの運転席と助手席
写真提供=ホンダ

私自身、もともとはNSXに対する知識が希薄であったが、上司である社長が所有していた1台を運転した日、その印象は一変した。

最初は怖かった。乗りづらい車だと思っていた。でも走り出した瞬間、「なんて懐の深い車なんだ!」と一瞬で価値観が変わった。

気づいたら試運転の範囲を大幅に越えて、遠くの街中にまで走りに行っていた。“乗れば分かる”というのはこのことか。まさに、NSXを象徴する言葉だと思った。

高性能だけど日本らしい優しさも感じる

日本では歴史的価値を“体験”として受け継ぐ文化が弱く、クラシックカーの価値が十分に理解されていない現実がある。

上村恭介『大人の旧車イズム』(扶桑社)
上村恭介『大人の旧車イズム』(扶桑社)

社会的な地位も名誉もあり、高級車を何台も持つ人物も、旧車の前では少年のように謙虚になり「壊れたらどうしよう」「自分が車に合わせないといけないよね」と語る。旧車は、マウントの取りようがない、歴史そのものだ。だからこそ、乗る人の姿勢まで変えてしまうと思っている。

旧車を見に来店されるお客様の姿は、どこかNSXの持つ美学とも重なる。高い性能があるからこそ優しくなれる。主張しすぎず、しかし芯は強い。その佇まいは、日本の文化や職人性をも象徴しているかのようだ。

NSXは世界と戦うために造られたスーパーカーでありながら、日本らしい優しさを失わなかった。高性能であることを、決して押しつけてはこない。必要な時だけ牙を見せる余裕。乗れば離れられなくなる魅力。

海外のスーパーカーのように派手ではない。だが、その静かな佇まいの奥には、たしかな誇りと情熱が宿っている。強さと優しさ。そんな人間味すら感じさせる車、それがNSXという存在なのだろう。

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