※本稿は、上村恭介『大人の旧車イズム』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
日本の自動車史に名を刻んだ初代NSX
国産車の歴史の中でも、NSXほど特異な位置を占めるモデルは他にはない。
初代ホンダNSX(NA1型)は、単なる高性能スポーツカーという枠を超え、世界に通用する“スーパースポーツカー”を目指した、日本の自動車開発における金字塔である。
その設計思想には、走りへの純粋な追求と日常生活での使いやすさを両立させるという、ホンダならではの独特の戦い方が色濃く反映されている。
NSXの根幹は、ミッドシップ・リアドライブ(MR)レイアウトを採用していることにある。
これは、エンジン(NA1型は、2977ccの水冷V型6気筒DOHC VTEC C30A型エンジンを採用)を車両中央付近、運転席の後ろに配置し、後輪を駆動する方式だ。
エンジンという車の構成部で最も重いコンポーネントを車体の中心近くに置くことで、ヨー方向(回転方向)の慣性モーメントを最小限に抑え、車両の旋回性能を飛躍的に向上させている。
「運転しづらい」と思わせないスポーツカー
一般的なMR車は、その構造上、居住性や視界を犠牲にしがちである。たとえば、エンジンが運転席の後ろにあるため、エンジン音や熱が室内に伝わりやすく、また後方視界の確保が難しい。これは、レーシングマシン的な走りの楽しさの追求に開発意識を全振りした結果であり、ドライバーに車両への適応を強いるスパルタンな性格になる傾向がある。
過去にイタリアのMRスポーツカーとして人気の高いアルファロメオ4Cに乗った際には、MRレイアウトによる不便さを痛感した。
ドライビングはめちゃめちゃ楽しい。けれど、同時に運転しづらいなぁ……とも思う。後ろも横も見えないし、街中だと駐車すら怖い。MRだからそれが当たり前、そんな感覚だ。
しかし、NSXは違った。
NSXはMRなのに視認性がすごく良いのだ。そこにまず「日本が造った、ホンダだから成し得たMRなのだ」と感じさせられる。


