麻布台ヒルズでわかった“やってみて見える需要”

2023年、大垣書店はグループ50店舗目となる「麻布台ヒルズ店」を東京にオープンさせた。きっかけは、京都本店を訪れた森ビル関係者からのオファーだった。

「森ビルといえば、ベンチャー企業や投資会社の人が働く場所でしょう。『これから何をすべきか』『どうやって価値を生み出すか』と常に未来を考えている人たち。だからこそ本はぴったりなんです。考えるヒントを与えてくれるものですからね。そこでビジネス書などを中心に置いたわけですよ。さて、結果どうなったと思います?」

大垣さんは著者に問いかけた。最先端で働く人たちは新しい情報が詰まった本が好まれるのでは、と答えると、大垣さんはニヤリと笑ってこう言った。

「絵本が一番売れたんです(笑)」

意外な答えに驚かされた。その理由を聞くと、子育て世代の社員が昼休みにふらっと立ち寄ったり、休日に子どもと一緒に訪れたりして、惜しみなく購入していくのだという。

「だからね、結局やってみないと分からないんですよ。ターゲットに向けた本選びはするんだけど、結果がわかってたら、みんな悩みませんよ」

麻布台店
筆者撮影
麻布台ヒルズ店。オフィスビル内の店舗で子ども向けの「絵本」が売れ筋とは、大垣さんも予想していなかった

AIに聞いても答えはわからない

そして大垣さんは熱い口調で続けた。

「だから人間には想像力や経験が必要で、それを育むのが本だと思っています。最近、生成AIってよく聞きますけど、あれはあくまで過去のデータの集積ですよね。確かに処理速度は速いし、過去の傾向から答えを導くのは得意やけど、『これから何が当たるのか』っていう未来は読めないですから」

時代が変わっても、本は人間の感覚を刺激し、未来を探るための大切な手がかりになる。こうした考えから大垣書店は地域ごとに書店の雰囲気や品揃えを変え、「人間の想像力を引き出す場所」としての店づくりに取り組んできた。その積み重ねで、読者の知的好奇心が刺激され、購買意欲にもつながっているのだ。

本と出会う場を、書店が取り戻せるかどうか

30年連続で増収を続ける書店――その背景にあったのは、最新テクノロジーや派手な戦略ではなかった。たった1冊でも取り寄せる。その姿勢が信頼を生み、街ごとの客層を読みながら棚を変え、思いがけない本と出会う場をつくり続けてきた。そうした一つひとつの積み重ねこそが、大垣書店の「リアルな逆転戦略」だった。

ネットの普及によって、本と出会う場所は大きく変わった。それでも、「偶然の出会い」を生み出す場を守り続けている。

出版不況の時代に、大垣書店が示してきた答えは、きわめてシンプルだ。

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