京都本店はなぜ「迷路」なのか
京都本店の狙いは明快だ。店内を回遊してもらい、特に目的を決めずに訪れた人が思いがけない一冊と出会えるように設計されている。
書店がある四条通り沿いは、観光地と商業地が交わるエリアだ。店内に足を踏み入れると、従来の書店のイメージを覆す多彩な仕掛けがある。正面には京都の名産品が並び、右手にはカフェ、左手にはお酒のボトルが並ぶバーカウンター。さらに奥へ進むと、とんかつ店や寿司店の看板が目に飛び込む。
本棚は飲食店に囲まれ、迷路のように広がっている。多業種の看板や商品が入り混じるこの空間全体が、ひとつの体験型書店としてデザインされているのだ。
店内は落ち着いたダークトーンで統一され、天井には空調や配管をあえて見せることで、高級感の中にモダンなアクセントも添えている。近年はインバウンドが急増し、特に夜は外国人客の割合が増える。これを見越して10年ほど前から免税対応を導入しているという。
「免税導入当初は、税務署の人から『本屋で免税? 外国人が買うわけないでしょ』と笑われましたよ。でも実際は、建築や仏像、日本文化を深く理解したいという外国人がたくさん来るんです。清水寺などの観光地を巡るだけでは満足できず、本を通じて学びたいという方が多いんですよ」
さらに「日本らしいものを買って帰りたい」というニーズも根強い。たとえば漫画はその代表例だ。母語の翻訳版を読んだ経験があっても、「お土産だから」と日本語の原書を1巻だけ選ぶ人がいる。日本語が読めなくても、原書を手にすること自体が価値になるのだ。
このように、京都本店では、地元客に加えて観光客へのアプローチが重視されている。本だけを目当てに訪れるわけではないお客さんにも、偶然本に出会う仕掛けが随所にちりばめられている。
専門書をそろえる滋賀・一里山店
一方、滋賀県大津市の一里山店はまったく違う顔を持つ。2008年、滋賀県最大規模の書店としてオープンしたこの店舗は、雑誌や実用書、新書ごとに棚がつくられた一般的な書店のイメージだ。
店づくりのヒントになったのは、出店を検討する際に金融機関の担当者が発した言葉だ。「この地域では住宅ローンを組む人が少ないんです」。つまり、一括で家を買う人が多く、経済的に余裕のある層が多いエリアなのだ。近隣には大学が3つ、大学附属病院もあり、関係者も多く住む。
「図書館に行けば無料で読めるのに、あえて本を買う人は、金銭的にも余裕があって、かつ本の価値を認めている人たちですね」
一里山店では、そうした読者を意識し、「知識に投資する層」に向けた専門書などの品ぞろえを徹底している。
京都本店と一里山店。立地も客層もまったく異なるが、両者には共通点がある。それは、「どんな人がこの街に住み、何を求めているのか」を徹底的に調べたうえで出店する姿勢だ。
「この本屋に行けば、ほしい本が手に入る。そうやってニーズに応えて、信頼を大事にしています。だから新店舗の出店前には、そのエリアに住んでいる方の年齢層やライフスタイルを見て、まずは品揃えを決めるんです」
しかし、東京・麻布台ヒルズ店では、徹底した市場調査や想定にもかかわらず、思いもしなかった結果が待っていた。





