日本の出版流通は「委託販売制」と呼ばれる。出版社が問屋(取次)を通じて全国の書店に配本し、売れなければ返品できるシステム。この仕組みを最大限活用し、どんな種類の本でも注文した。
「例えば医学などの専門書って、店頭に置いてなければ『この本屋にはない』と思われてしまうでしょ。でも『取り寄せます』と伝えれば、この本屋なら必ず手に入ると思ってもらえる。そうやって一つひとつ対応してきたんです」
コストを度外視して1冊でも注文を受ける。たとえ利益が小さくても手を抜かない。その積み重ねが、やがて「信頼」という最大の資産を生んだ。
店舗を増やして“仕入れの壁”を乗り越える
それでも、小さな書店の悩みは尽きなかった。とりわけ高いハードルになっていたのが「仕入れの壁」だった。たとえば、新刊が新聞広告に載っても、入荷できるのは5冊ほど。すぐに品切れになり、「実物を見てから買いたい」というお客さんを逃してしまう。
ある日、大垣さんは入荷冊数を増やしてほしいと出版社に相談してみた。
「年商10億になったら、もうちょっと送ってあげるよ」。返って来たのは、愛想もない返事だった。当時、大垣書店の年商は3億~4億円。1店舗で10億円を達成するのは現実的ではない。
ならばどうするか。大垣さんが選んだのは、店舗を増やすことだった。まず京都市に隣接する亀岡市に2号店を出店。すると、売り上げが伸び、出版社の対応も徐々に変わってきた。
「店を増やしたらだんだん出版社も、『ちょっと相手にしたろか』と思ってくれるんですよ」
大垣さんは年に1店舗ずつ出店を続けていった。そして現在、京都を中心に、大阪、神戸、東京、広島、北海道など全国50店舗を展開するまでに成長したのだ。
立地と客層で棚を変える
店舗を増やしていくことで増収を実現してきた大垣書店だが、これだけで出版不況にたち向かえるわけではなかった。そこで話題は店舗づくりの工夫へと移った。
京都出身の筆者にとって、大垣書店はすでに身近な存在だが、以前から不思議に思っていたことがあった。京都本店(京都市)とフォレオ大津一里山店(滋賀県大津市、以下一里山店)では、まるで別の会社のように内装や雰囲気が異なるのだ。
その理由を尋ねると、大垣さんは「立地と客層の違いですね」と即答した。
「書店って、来る人が変われば、置く本も、空気も、まったく変わるんです。学生が多い街と、研究者や家族連れが集まる街では、同じ棚では通用しませんから」
だから大垣書店では、「どんな人が、どんな目的でこの街に集まっているのか」を起点に、店づくりを考える。ジャンルの比率、棚の見せ方、空間の使い方まで、すべては立地と客層から逆算する。
その考え方は、京都本店、一里山店、そして東京・麻布台ヒルズ店へと、店ごとに異なるかたちで表れている。
