「欲しいものが手に入らなければ、自分で創りだす」
子どもの頃から父の趣味活動を見てきて感じるのは、新しいもの、面白そうなものへの興味と探求心がとてつもなく大きいということです。それ故に、市販の既製品では満足できなくなり、欲求を補完したい衝動から、自ら創りだすことになるのです。それが父の場合、電子工作であり、それをサポートしたのが電子部品でした。ラジオ、無線機、オーディオ、パソコンと時代によって関わるものは変わってきましたが、「欲しいものが手に入らなければ、自分で創りだす」という精神はまったく変わっていなかったと思います。
この精神は、形や対象が変われど、秋葉原ではまだまだ健在です。電子部品が欲求を補完するサポートの役割を終えたのではなく、人々の欲求が多様化して、電子部品以外の「部品」も必要になってきただけです。それは、自分の理想のドールを作るためのカスタマイズ用パーツであったり、もっと便利なスマートフォン用アプリのプログラムであったり、自分に合った癒しを感じられるシチュエーションを提供するメイドカフェの演出であったりと、さまざまです。
秋葉原駅前のラジオストアーの閉館で、開業以来60年以上も営業してきたテナント店舗は、ほとんど秋葉原内に移転するか通信販売で営業を続けます。次代の欲求補完をサポートできる「部品」を提供できるように、秋葉原の顔に当たる場所を譲ってくれたのだと私は感じています。跡地になにができても、秋葉原ラジオストアーが謳ってきた「部品ならなんでも揃う」秋葉原はこれからも変わらないでしょう。ちょうど、父から私に「趣味人」のDNAが引き継がれたように。