母親たちが専門店に殺到
2011年3月11日の東日本大震災直後、秋葉原は他の観光地と同様に、閑散としていました。ところがある電機専門店に、多くの客、特に普段は秋葉原に縁がないような女性たちが殺到していました。そこは、あらゆる計測器を取り扱う「東洋計測器」です。当時、放射線量を測る測定器が市場に不足していました。一般の電気店ではもちろん取り扱いはありません。ネットでは粗悪な偽物製品も出回りました。そこで、放射線の子供への影響を心配する母親たちが、遠方からも秋葉原へと集まってきたのです。
秋葉原に馴染みがない人にも、「電気に関するものなら、秋葉原に行けば何でも揃う」という電気街としてのブランドが秋葉原に定着しています。確かに、誰もが普段に使うような標準化された商品であれば、地方の量販店やネット通販でも簡単に手に入るでしょう。しかし、放射線測定器のような特別な商品や電気パーツなどは、秋葉原でしか手に入らないものも多くあります。この商品の多様さが、秋葉原電気街の強みであるのは、明らかです。
秋葉原で取り扱う主力商品は時代とともに変わってきましたが、それまでの商品が秋葉原から消え去ったわけではありません。戦後の電気パーツや組み立てラジオから始まり、無線、オーディオ、家電、パソコンというように、それぞれの時代を一世風靡した商品を扱う店舗は今も健在です。これらの店舗が層をなすように秋葉原に集積し、今のような「なんでも揃う」電気街を形成してきたのです。
最近、秋葉原で続く地元の家電量販店の買収や閉鎖が話題になっています。しかし、これで電気街としての秋葉原が終焉を迎えると考えるのは、あまりにも短絡的です。それは、秋葉原電気街が持つ底力ともいえる、もうひとつの強みを見落としているからです。