「目利き」店員がしている仕事

秋葉原には、以前にも同じような経験がありました。バブル経済が崩壊した1990年代初頭、秋葉原を訪れる人も少なくなり、老舗電気店がいくつか閉鎖に追い込まれました。この時も「秋葉原の電気街は終わりか」と噂されました。しかし、1995年のWindows95の発売をきっかけにパソコンブームが起こり、秋葉原は再び活気を取り戻しました。それは単なる偶然ではありません。秋葉原には、新しい時代の変化を受け入れる下地がきちんとあったからです。それはユーザーとメーカーを結び付け、日本のものづくりを支えてきた、電気街の「目利き」店員たちの存在です。

秋葉原には、高い専門性と幅広い商品知識を持った「目利き」店員たちを擁する大小さまざまな店舗があります。「目利き」店員に探しているものを相談すると、的確に詳しくアドバイスしてくれます。たとえば、電気パーツのお店では、回路図の描き方や足りない部品が手に入る他店を教えてくれることもあります。家電やパソコンのお店では、それぞれの商品の短所や長所を分かりやすく説明し、客の要望やこだわりを汲み取って商品を勧めてくれます。そのため、大型量販店やネット通販がいくら安くて便利でも、その「目利き」店員から購入したいと、秋葉原まで足を運ぶファンまでいます。

また、「目利き」店員は、秋葉原に訪れるメーカーの開発や営業の担当者に、小売りの現場で得たユーザーの動向を伝えています。たとえば、前出の東洋計測器では、メーカーからの研修を受け入れ、単なる販売促進用ヘルパーではなく、ユーザーがどのような商品を潜在的に求めているのかを感じ取る機会を設けています。このように秋葉原の「目利き」店員は、ユーザーの生の意見や要望をメーカーに伝え、メーカーのこだわりや技術をユーザーに伝えてきました。メーカーが求められている商品を開発でき、ユーザーがその価値を理解できるように、「目利き店員」はユーザーとメーカーを結び付けているのです。それによって、これまで価値ある商品を生み出してきた日本の「ものづくり」を支えてきたのです。

ところが今、多くの家電量販店は価格競争に明け暮れ、深く広い商品知識を持たない販売促進用ヘルパーを多用して、「目利き」店員の役割を軽視しているように思えます。そうすると、メーカーは、在庫管理のデータだけを頼りにして現場に通わなくなり、ユーザーは、商品の価値がわからず安いものばかり求めるようになります。このユーザーとメーカーの断絶が、今の日本の家電業界、そして「ものづくり」の危機に結びついていると感じています。

しかし、秋葉原電気街の底力である「目利き」店員たちの役割を今こそ再評価すれば、日本の「ものづくり」の復活に貢献できると思います。そうすれば、今後、取り扱う主力商品が変わっても、秋葉原が電気街であり続けることに変わりはないでしょう。

(次回のお題は「ボランティア活動」。5月14日[火]更新予定)

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