中国は無宗教の人が多いとされる。毛沢東が文化大革命で儒教・仏教・道教、さらには民間信仰を徹底的に弾圧したからだ。『中国TikTok民俗学 スマホからはじまる珍神探訪』(NHK出版新書)を書いた大谷亨さんは、「だが、中国版TikTokは神々を信仰する人々の動画で溢れかえっている」という。知られざる中国の信仰世界を、ノンフィクションライターの山川徹さんが聞いた――。(第1回)
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写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです

中国版TikTokに投稿されるディープな「民俗動画」

――書籍名『中国TikTok民俗学』とあるように、大谷さんは民俗学的な調査にショート動画SNSを活用されています。そのきっかけを教えてください。

 きっかけは留学時代の研究仲間の一言でした。

2017年9月から20年2月までの2年半、中国に留学していた私は「無常」と呼ばれる死神について調査していました。ちょうど中国国内向けに開発された中国版TikTok――Douyin(ドウイン)が流行しはじめた時期です。

「このドウイン(以下、TikTok)ってヤツ、中国の農村の人々が身の回りの生活をバンバン投稿しているから、絶対に見た方がいいよ」

ところが、私は新しいテクノロジーに疎いこともあり、友人の言葉を聞き流していました。「TikTokが民俗学の調査に使えるわけないだろ」と無視したんです。

その後、コロナ禍になり、帰国を余儀なくされました。実家で暇を持て余していたときに、ふと友人の言葉を思い出し、改めてTikTokを見て腰を抜かしました。「農村の奇祭」「旅芸人の記録」「誰かのお葬式」……。といった中国各地の珍しい風習を映した“民俗動画”が大量に投稿されていたからです。

以来、バーチャルフィールドワークと称して熱心にTikTokを見るようになりました。それに伴い、TikTokの真価についても段々と理解が深まりました。民俗学は“ふつうの人々”について研究する学問です。そして、TikTokというのは“ふつうの人々”が自分の視点で撮影した動画を発信するツールです。両者の親和性が高いのは至極当然の話だな、と。