睡眠は人間にとってどれくらい重要なのか。筑波大学の櫻井武教授は「人間は眠ることで、脳の再生を行っている。何日も連続して寝ないでいると、正常な自己意識が持てなくなる」という――。
※本稿は、櫻井武『意識の正体』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
どんな動物も「睡眠」を放棄できない
無防備な姿勢で、外界との接点を断ち、意識をそっと手放す――この儀式を、私たちは毎晩のように繰り返している。睡眠中、私たちの意識の機能は大幅に低下し、五感は鈍化し、脳は世界との交信を静かに閉ざす。私たちは毎日、一定の時間「世界の観察者」であることをやめているのだ。
一見、生物が生き残るために重要なのは、環境からの情報を絶えず処理し、それに適応することにあるように思える。その観点からすれば、意識は世界と常時接続しているべきだろう。
睡眠をとらない動物がいたとしたら、それは常に活動が可能であり、生存の上で圧倒的に有利な立場にたつように思われるが、実際には進化の過程で睡眠を放棄することは不可能だった。
進化の歴史を通じてすべての動物が「睡眠」をとる。それは、睡眠が生命維持に不可欠なメカニズムであるか、そうでなければ、システム上どうしても削除できないものであるかのいずれかであることを示唆する。
「脳を持たない生命」でも眠っている
少し、視点を変えてみよう。私たちは意識を灯している覚醒のときにしか世界を認知できていないから、当然のように覚醒という状態を基準に生物の在り方を考えている。しかし、その前提は本当に正しいのだろうか?
私たちは、生物は「睡眠という機能」を進化の過程で獲得したかのように思いがちだが、近年では、クラゲやヒドラといった、神経系がきわめて原始的な動物にさえ、睡眠に似た周期的な活動の変化が観察されて、驚きをもって迎えられている。
これらの生物は、一定の時間、刺激に対する反応が鈍くなり、その後に回復するというリズムをもっている。つまり「眠り」という行為は、脳をもたない生命にすら見られる、根源的な生理現象だというのだ。

