私たちが持っている記憶は、本当に正しい内容なのか。筑波大学の櫻井武教授は「人間は断片的な出来事を時系列に並べ、文脈を補完することで『記憶』というストーリーを完成させている。それは必ずしも事実であるとは限らない」という――。

※本稿は、櫻井武『意識の正体』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/oatawa
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あなたの記憶は、本当に正しいのか

もともと私たちは、断片的な出来事を「物語」として再構成することで、時間の連続性を創り出している。

たとえ記憶の空白があっても、「たぶんこうだったのだろう」と文脈を補完し、自らの経験に一貫したストーリーを与える。この“物語化”の力こそが、自己という感覚の土台である。

私たちは出来事を時系列に並べ、因果関係を補完することで理解しようとする傾向がある。

「Aの後にBが起きたから、AがBを引き起こしたのだろう」といった理解は、明確な根拠がなくても自然と受け入れられてしまう。この“因果性の錯覚”は、18世紀の哲学者デイヴィッド・ヒュームが指摘したとおり、私たちの心の癖でもある。

SNSで陰謀論が広まる脳科学的理由

この癖は進化の過程で生存に役立った可能性がある。「物音がする→獣が来た→逃げろ」という経験からくる「物音がする→逃げろ」という推論は、正しいかどうかよりも“素早い判断”であることが重要だったのだ。

だからこそ、人間の意識は、記憶を「時間順に」「因果的に」並べて意味づけようとするようにできている。

たとえそれが事実に反する“でっちあげ”であっても、物語のある事件のほうが、断片の集積よりも心理的に受け入れやすい。それゆえ、人は出来事に何らかの理由を求めずにはいられない。理解できないものでも、何らかの理由があると納得したような気がするのだ。

SNSで陰謀論が広まるのも、この“前後関係で隙間を埋めようとする心理”が働くからだろう。陰謀という「理由」をつくってもらえれば、不可解な出来事も納得がいったような気がするからだ。

記憶を再構築し、ストーリーを作る

こうした時系列に“仮の”因果関係を構築する構造は、睡眠中の脳活動にも見られる。海馬から大脳皮質への情報転送、感情的記憶の再整理、文脈づけ――こうした“無意識下の情報処理”によって、私たちの記憶の筋書きは静かに編集されている。

つまり、私たちは眠っている間に、過去を整理し、未来に備え、自分という物語を再構築している。この営みは、バラバラな記憶の断片を“物語”でつなぐことで、私たちに“現実”という一貫性を与えているのだ。

では、もしこの「記憶」という記録がなければ、私たちの“自己という物語”はどうなってしまうのか。それをまざまざと示すのが、「H.M.」として知られるある男性の症例である。