地域内でのつながりが強いと、閉塞的になるのか。京都大学人と社会の未来研究院教授の内田由紀子さんは「地域内部の信頼関係の高さ自体が必ずしも閉鎖性をもたらすとは限らない。むしろ、内部のつながりの強さは、その地域への愛着を高め、移住者にも受け入れられる基盤となる可能性がある」という――。

※本稿は、内田由紀子『日本人の幸せ ウェルビーイングの国際比較』(中公新書)の一部を再編集したものです。

夏の公園
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幸福の意味は地域それぞれ

地域についての評価を計画し、調査を進める中で、一つ重要な点として気づいたことがあります。それは、幸福の意味は地域それぞれであり、一律ではないという当たり前の事実です。このことは、これまで本章でも取り上げるいくつかの地域の自治体・自治会や住民の方々にお世話になり、行事に参加させてもらったりさまざまな年齢層の方とお話をしていく中で見えてきたことでもあります。

幸福感を測定すると、経済的に豊かな地域のほうが、幸福度は高いように見えてしまいます。しかし本書でこれまで述べてきた通り、幸福感はランキングをつくるための指標ではありません。むしろ、住民が「自分たちにとっての幸福とは何か」を考えるプロセスそのものに意義があるのです。各都道府県の幸せ度ランキングなどが時々メディアでも取り上げられますが、日本全体のウェルビーイングの向上をめざしていく中で、互いに競争して自分たちのランクを上げることに意味があるとは思えません。それぞれの地域にはそれぞれの強みや特徴があり、そこに住む人の幸せの形は違っているのに、直接的な比較をすることには限界があります。

日本各地で調査を実施

農業・漁業地域を含んだ大規模調査では、西日本400集落をサンプリングし、前後も含めて9年間で5回の調査を実施しました。その結果、集まった質問紙調査データは約2万人超分。また、同じ地域からサンプリングしているため、地域の変化の分析も可能となりました。さらに拠点地域では行動やつながりをまったく別のやり方で測定しました。住民の活動量やネットワーク構造についてデジタル技術を用いて測定しました。

またいくつかの西日本の地域を対象に、家や町の状態などの環境変数の分析も行いました。具体的には、住環境における家のメンテナンス状況や植栽の有無など、生態学的な観点も組み合わせて検討を試みました。地域の強みや弱みを検討するような質問項目をさまざまな地域の方からのリクエストにお応えできるように、自治体や地域づくりの意向の調査や統計解析による有効性も検討してきました。

さらに、フィールドに入って拠点調査も行いました。一つは、京都府京丹後きょうたんご大宮町おおみやちょうの7つの集落での地域調査です。また、京都市右京うきょう区の太秦うずまさ学区では、小学校や地域のバスという交通ルートを中心とした社会ネットワークの形成について研究しました。そして岩手県滝沢たきざわ市では、地域の幸福ビジョンを策定する政策決定に協力し、複数の集落で調査を行いました。

さまざまな地域で研究を進める中で、「自分たちの地域でも幸福の測定をしてほしい」という依頼が寄せられるようになりました。その結果、九州地方でも調査を実施し、地域のデータのフィードバックを通じて、住民が幸福について考える機会を提供しました。