ナベツネさんを財務省が説得?
ところが今年夏になると、前言を翻し「デフレ脱却前の増税は景気腰折れの恐れがある」「来年4月予定の8%増税は先送りすべき」と主張し始めた。増税を1年先送りにして再来年10月に一気に10%に引き上げるという主張だった。読売のドンと呼ばれる渡辺氏の意向に従い、読売新聞の社論も増税推進から先送りに変更。「8%見送りはデフレ脱却を最優先した結果」(読売8月31日社説)と書き、先送りを進言した。
だがドンと首相の会食後、読売の報道は昨年までの増税推進に先祖返りしたようだ。他紙に先駆け、税率引き上げで「首相が意向固める」と読売が報じたことで一気に増税の流れができた。ライバル紙の編集幹部が「読売の編集幹部が“トップの意向がコロコロ変わるので説明に困っている”と嘆いていました。一説では、財務省がナベツネさんを説得したのではないかと言われています」と前置きして語る。
「ナベツネさんの主張で一貫しているのは“公共財である新聞は消費税率引き上げの対象外にすべきだ”という点だけ。こんな虫のいい主張が国民に受け入れられるはずがないけれど」
首相の動静欄をチェックすると、渡辺氏は今年に入り少なくとも5回、首相と懇談している。政界に大きな影響力を持つ渡辺氏に、首相も多大の配慮を払ってきたのは確かだ。
しかし、首相が消費税引き上げを決断したのは、メディアを気にしたからというわけではなさそうだ。首相のブレーンの1人が言う。
「元々、首相は消費税率引き上げに消極的だ。1997年の消費税率引き上げがアジア通貨危機と重なり、景気後退、税収減につながった教訓もある。アベノミクスがデフレ脱却を目指して成果を挙げているだけに、増税で経済に冷水を浴びせたくはなかった」
が、一方では「税率の2段階引き上げは法律で決定ずみ。増税延期には新たな法律を成立させねばならない。ただでさえ臨時国会の会期は短く、とても無理」(首相周辺)というのが実情。そこで首相は、増税の一方で大型の景気対策を行い、景気の腰折れをできるだけ避ける道を選んだ、ということのようだ。