ルイ・ヴィトンは近年、事業領域を大きく広げている。2023年にはカタールのドーハ・ハマド国際空港に「ルイ・ヴィトン ラウンジ」をオープンし、今年は初となるホテルがパリで開業予定だ。富裕層マーケティングを長く手掛ける西田理一郎さんは「ルイ・ヴィトンはいま、従来の『鞄を売る会社』という枠を超え、新たな領域へと事業を拡張しようとしている」という――。
2023年5月、ドーハ・ハマド国際空港のカタール・デューティー・フリー内に誕生した「ルイ・ヴィトン ラウンジ by ヤニック・アレノ」
提供=ルイ・ヴィトン ジャパン
2023年5月、ドーハ・ハマド国際空港のカタール・デューティー・フリー内に誕生した「ルイ・ヴィトン ラウンジ by ヤニック・アレノ」

次に支配するのは「時間」と「居場所」

1854年。馬車移動から鉄道や蒸気船による大量輸送時代へ移行する大変革期に「平らな蓋のトランク」を発明し、瞬く間に世界の富裕層を魅了するブランドへと成長したルイ・ヴィトン。

しかし、創業から170年がたった今、彼らは鞄ブランドとしての地位に安住せず、顧客の「時間」と「居場所」にまで価値を届けるブランドへと進化しようとしている。

富裕層の関心が「所有」から「体験」へとシフトする中で、ルイ・ヴィトンもまた、その提供価値を劇的に変化させている。彼らが次に支配しようとしているのは、私たちの「時間」と「居場所」だ。

象徴的なのが、2023年にカタールのドーハ・ハマド国際空港にオープンした「ルイ・ヴィトン ラウンジ」である。

なぜ、バッグブランドが空港ラウンジを作るのか? そこには、創業以来のテーマである「旅」を、AIやWeb3といった最新テクノロジーと融合させ再定義しようとする、壮大な野望が見え隠れする。

前編〈ルイ・ヴィトンを「世界一」にしたのは日本人だった…中国人がわざわざ日本に来て「ヴィトンのバッグ」を買う理由〉では、ルイ・ヴィトンが「モノ(物理的資産)」として、いかに富裕層の信頼を勝ち得てきたかを解説した。後編では、彼らが現在進行形で進めている「コト(体験的資産)」への大転換について紐解いていこう。

今年には初の“ヴィトンホテル”が開業

その象徴が、カタールのドーハ・ハマド国際空港にある「ルイ・ヴィトン ラウンジ」だ。

ラウンジの内観。ロー・エッジズの「コズミック・テーブル」の上にエドワード・バーバー&ジェイ・オズガービー「ベル・ランプ」が並ぶ。
提供=ルイ・ヴィトン ジャパン
ラウンジの内観。ロー・エッジズの「コズミック・テーブル」の上にエドワード・バーバー&ジェイ・オズガービー「ベル・ランプ」が並ぶ。

ドーハは、ヨーロッパとアジア、アフリカをつなぐハブであり、世界中のジェットセッター(富裕層の旅行者)が交差する場所だ。ルイ・ヴィトンは、この「乗り継ぎ(トランジット)」という時間に目をつけた。

通常、乗り継ぎの待ち時間は「退屈な空白の時間」である。しかし、ルイ・ヴィトンはこの時間を「豊かな旅の一部」へと書き換えようとした。ミシュラン星付きシェフ、ヤニック・アレノ監修の食事、極上のインテリア、そして静寂。

これは単なる飲食店の展開ではない。創業者のルイ・ヴィトンが、かつて鉄道移動の「不便な荷運び」を、平らなトランクによって「快適な移動」に変えたように、現代のルイ・ヴィトンは空港ラウンジという空間によって、移動の「スキマ時間」を価値あるものに変えているのだ。