なぜ日本では冬の溺死者が多いのか

近年は、毎年冬になるとニュースや天気予報で注意喚起がされているため、「ヒートショック」という言葉をご存じの方が多いとは思います。

念のために説明すると、ヒートショックとは、家の中の温度差によって、心臓や脳に負担がかかり、身体がダメージを受けることです。

具体的には、例えば、入浴する時に、寒い脱衣室で服を脱ぐと、寒さのために鳥肌が立ちます。これは、血管が収縮して血圧が急上昇している状態です。そのまま寒い浴室に入ると、さらに血圧が上昇します。

その状態で熱めの湯につかると、温まったことで血管が広がって血圧が低下。急激な血圧の変動により浴槽内で気を失ってしまい、そのまま溺死してしまう人が多いのです。

それ以外にも血圧の急変動は、心筋梗塞や脳卒中も引き起こします。

入浴中の急死者数は交通事故死者数の7倍
筆者提供

ヒートショックで、お風呂で溺れてしまう。だから、日本では冬の溺死者数が圧倒的に多いのです。

「溺死」というと、夏に海水浴場等で溺れることをイメージする方が多いと思います。ところが、月別の溺死者数は9月が最も少なく、最も多いのは1月で、なんと9月の9.6倍にも上ります。意外に感じられるのではないでしょうか。

月別溺死者数
出典:厚生労働省「人口動態統計特殊報告」

リスクが最も高かった意外な“地域”

もうひとつ意外なのは、冬の寒さがヒートショックを引き起こすけれど、東北や北海道といった寒い地域でよりリスクが高まるわけではないということです。

2011年の東京都健康長寿医療センター研究所などによる「我が国における入浴中 心肺停止状態(CPA)発生の実態」によると、都道府県別の高齢者人口あたりの入浴中に心臓機能停止(CPA)となった人数の1位は、なんと、温暖であるはずの香川県です。

それだけでなく、2位の兵庫県、5位の和歌山県、7位の愛媛県など、上位には比較的暖かい県がランクインしています。

反対に少ないのは、寒い青森県が44位、北海道が46位です。寒いからといって入浴中のCPA発生件数が多くなるわけではないことがよくわかります。

むしろ、寒い地域では高気密・高断熱住宅が普及していて、家の中の温度差がほぼないために、ヒートショックが少なくなります。

つまり気候がどうであれ、家の性能が高く快適に過ごせる環境ならば、ムダに命を落とさなくても済むのです。

入浴中の心肺機能停止者(CPA)発生件数上位・下位都道府県(2011年)
出典:「我が国における入浴中心肺停止状態(CPA)発生の実態」東京都健康長寿医療センター研究所他