欧米、移民政策崩壊の理由

ひるがえって労働移民の受け入れにおいて、その資格や技能を問わず、無条件に永住資格を認める国は存在していない。これは人権を基調とした受け入れをしてきた欧米諸国においても例外なく見られる特徴である。

日本の近年の移民政策がより選別主義的、業績主義的になってきていることを指摘する研究も多いが(Higuchi 2024, Takaya 2025)、これは労働移民政策が一般的に持つ特徴を挙げているだけであり、日本だけの特徴とは言えない。

人であふれる関西空港の第一ターミナル
写真=iStock.com/Cristi Croitoru
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むしろ、受け入れの際に求める要件が比較的少ない(OECD 2024b)ことに加え、永住型の占める割合が多いといった特徴を踏まえるならば、日本は国際的に見てリベラルで開放的な労働移民政策をとる国(Kalicki 2021)として位置づけられる。

その結果、日本は先進国ではほぼ唯一、労働ルートでの受入れが機能している国と言える。なぜなら、欧米諸国における移民受け入れは、最も需要の多い「労働ルート」での受け入れが非常に狭く、難民などの「人道ルート」、家族呼び寄せなどの「家族ルート」、観光などの短期滞在の後の「オーバーステイ」(超過滞在)といった他のルートにあふれ出しているためだ。これが欧米の移民政策が崩壊しているとされる所以である(Joppke 2025)。

日本の移民政策、実は先進的

一方、本章で明らかにしたように、日本は広範なスキルレベルにわたって永住型の労働ルートでの受け入れが行われており、他のルートが濫用されるリスクは低い。例えば、現在、年間4000万人にも及ぶインバウンド(外国人観光客)を受け入れつつ、そこからのオーバーステイや不法就労がほとんど見られないのは、労働ルートがきちんとその役割を果たしているためと考えられる。これは国際的に見て、非常に大きなアドバンテージと言えるだろう。

こうした見方は、本書に固有のものではなく、国連やOECDなどの国際機関による評価にも見ることができる。まず、先述したSDG指標による日本の移民政策の評価を見てみたい(UN2021)。

それによると、日本は移民政策の6つの領域のうち、2つの領域において4段階評価の最上位である「完全に満たす」と評価され、残り4つの領域において80〜100%の基準を満たした場合に得られる「満たす」と評価される。その結果、全体評価は「満たす」とされている。

評価対象となった先進国42カ国のうち、全体評価で「完全に満たす」とされたのは1カ国もなく、76%に当たる32カ国が「満たす」とされる中、日本は移民政策を持つ国として位置づけられ、かつその体制は十分なものと評価されているといってよいだろう。つまり、移民政策の不在論はこういった国際的な認識とは一致しない。