「地元エリート養成機関」の崩壊シナリオ

そんな現状を大学側はどう受け止めているのか。東北大学アドミッション課に聞いた。

「進路情報や学習環境に地域差が進学機会に影響しないよう注視し、地域連携の一環として東北6県の高校と情報交換や課題共有に取り組んでいきたい」

地元学生の囲い込み等を実施する予定はあるかという質問に対しては、「現状本学は国際性と多様性を重視し、地元学生向けの特別選抜を現時点では検討していません」という回答であった。

同様に、文部科学省や各大学の公式発表では、直接的に関東圏からの学生流入を懸念している声は見られない。表向きは出生減が確実である地方大学に若年層が流入しているからだろう。しかし、大学進学で地方移住した学生たちがそのまま地方に残ってくれるとは限らない。実際に、北海道大学に着目すると、北海道・東北出身者の大半は北海道で働きたいとの声が多いものの、関東出身者は概して後ろ向きだ。

このように、地元のエリートが集うはずの地方旧帝大にもかかわらず、域外出身者の就職予備校のような役割を果たしているとも言える。東北大医学部や名古屋大医学部では数人の地域枠定員も存在するものの、基本的には全国からの受け入れを重視するスタンスを貫いている。(※医学部地域枠については国の方針および県との協議による措置であり大学側の判断ではない)

地方旧帝大は「誰のための場」なのか

一方で、関東出身者の濃縮が加速している関東の難関私大では、地方出身者向けの奨学金が設立されるなど、経済面で地方出身者を支援する動きもみられる。

例えば、早稲田大学の「めざせ!都の西北奨学金」では、南関東1都3県以外の出身者に対して、年間授業料の4割程度が給付される。収入要件は世帯合計で1000万円が上限と比較的受給ハードルは低く、対象人数も最大1200人と大盤振る舞いだ。経済面が足かせとなっている地方の優秀層を確実に取り込むことを狙ったものであろう。こうした施策は、関東出身者にとっては逆風となり、地方進出のさらなる加速につながる可能性もある。

地方旧帝大の「首都圏化」は、単なる進学動向の変化ではなく、大学とは誰のための場なのか、という根本的な問いを突きつけている。地元出身者が減り、首都圏の準上位層が流れ込み、大学の文化や役割が揺らいでいる背景には、人口減少と地域の相対的な進学力低下、そして私大定員厳格化による受験地図の再編がある。とりわけ、首都圏における受験競争のインフレから一時避難し、旧帝大クラスの高度教育を享受するための「ブルーオーシャン戦略」が浸透してきたのだ。

これまで地方旧帝大は、地元のトップ人材の育成拠点としての役割を担ってきた。しかし、地元出身者が大きく減っている今、地域のエリート養成の場なのか、全国の優秀層に学問を提供する場なのか。大学自身がその存在意義を再定義する局面に来ているのかもしれない。

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