トランプ大統領を強力に支持する、アメリカのキリスト教福音派の人々。立教大学文学部教授の加藤喜之さんは「山に籠り祈るのではなく、政治にコミットすることで、福音派はキリストの王国をアメリカに打ち立てようとしてきた」という――。

※本稿は加藤喜之『福音派――終末論に引き裂かれるアメリカ社会』(中公新書)の一部を再編集したものです

トランプ大統領(右)の就任式で祈りを捧げる福音派の伝道師フランクリン・グラハム(左)
2025年1月20日、トランプ大統領(右)の就任式で祈りを捧げる福音派の伝道師フランクリン・グラハム(左)。(写真=DPA/共同通信イメージズ)

闇の力がトランプを邪魔している?

大統領選挙まで2週間余りとなった2024年10月21日のことだ。ノースカロライナ州で開かれたトランプ陣営の集会で、「アメリカの牧師」と呼ばれた福音派伝道師である故ビリー・グラハムの息子、フランクリン・グラハムが登壇した。投票直前の集会だったこともあり、ボルテージは最高潮に上がった。壇上のフランクリンは、この選挙戦を神と悪魔の戦いという終末論的な物語の中に入れ、神の力を乞う。

選挙期間中にトランプが牢獄に入れられそうになったのも、二度も暗殺されそうになったのも、メディアに連日叩かれるのも、実は悪魔――「闇の力」とフランクリンは呼ぶ――が背後におり、彼の大統領就任を妨げようとしているからだ。したがって、トランプと合国の唯一の希望は、神だけだとフランクリンは断言した。

彼の言葉に沸き上がる聴衆に対してフランクリンは淡々と続けた。トランプが朝起きてまず行うのは神への祈りであり、神はこの祈りを聞いており、この祈りに応える。なぜなら「戦車を誇る者もあり、馬を誇る者もあるが、我らは、我らの神、主の御名を唱える」(詩篇20篇7節)からだとフランクリンは聖書を引用しながら語った――もちろん「戦車」や「馬」とも言うべきトランプ陣営の莫大な選挙資金についてはなにも述べない。