終末論的世界観を共有する「Qアノン」

また、ディスペンセーション主義が大衆化するなかで、終末論はその古典的な枠組みを逸脱し、福音派の外部にも信奉者を集めるようになっていった。その代表的なものにQアノンの陰謀論がある。

Qアノンは4chanというインターネット掲示板で広まった陰謀論だが、この陰謀論の奉者には福音派の白人が多い。それもあり、Qアノンには終末論的な特徴が見出せる。すなわち、まず「嵐」という患難の時があり、その後に覚醒の時があり、最終的に救済があるという図式だ。

こうした教えが明確な指導者や教師なしに広がった点から、ハンメルら研究者たちは民間宗教化した福音派の終末論をみる。Qアノンが救済の鍵としたのはトランプであり、トランプ支持の原動力にも終末論があったと言ってよいだろう。

トランプを救世主とみなす「新使徒運動」

カナダのコンコーディア大学教授アンドレ・ガニエは、『トランプを支持する米国福音派――支配、霊的戦争、終わりの時』(2024年)の中で、ペンテコステ・カリスマ派を中心に広がったトランプにまつわる予言を分析する。ガニェによると、トランプとも関係の深かったポーラ・ホワイトをはじめとする「新使徒運動」の指導者たちは、2020年の大統領選挙での勝利を予言したという。

彼らにとってトランプはユダヤ人を捕囚から解放したペルシアの王キュロスのような存在であり、信者を世俗の闇から救い出してくれると疑わない。したがって、大統領選での敗北は同運動に大きな動揺を生んだ。その一部は選挙の不正を唱えたが、予言の誤りを認め、トランプの不道徳やうぬぼれが敗北の理由とする者もいた。だが、24年の大統領選で新使徒運動は、引き続きトランプを熱狂的に支持。激戦州を中心に活動を展開し、彼の勝利へ大きく貢献したと言われている。

その恩に報いるためだろう。トランプ大統領は、ポーラ・ホワイトを第2次政権で、宗教の自由や家族の問題を扱うホワイトハウス信仰局(Faith Office)の上級願間に任命した。