ESG規制の緩和を進めるEU

欧州連合(EU)は、肝煎りの政策の一環であったESG(環境・社会・統治)規制の緩和を進めざるを得なくなっている。もともとEUの“過剰”ともいえるESG規制に関しては、EU域内で事業を営む企業から修正を求める声が上がっていた。またそうした規制への対応が、EUの産業競争力のさらなる低下を招くとの懸念も寄せられていた。

緩和の対象となっているESG規制とは、具体的には、企業に環境権、社会権、人権、統治要因などの持続可能性事項に関する報告を義務付ける「企業持続可能性報告指令」(CSRD)と、同様に企業に対して人権や環境への負の影響を予防・是正する義務を課す「企業持続可能性デューデリジェンス指令」(CSDDD)の2つである。

うちCSRDは2023年1月に、CSDDDは2024年7月に発効され、段階的に適用される予定だったが、当初から企業の負担の重さが問題視されており、緩和は必至の情勢だった。2025年2月にはEUの行政府である欧州委員会が簡素化のためのオムニバス法案を提出、同年4月には立法府である欧州議会が適用の延期を可決した経緯がある。

欧州議会では、最大会派で中道右派の欧州人民党がESG規制の大規模な緩和を求める一方、中道左派の社会・民主主義進歩連盟がその行き過ぎを警戒し、結果、審議が難航するという構図が成立していた。とはいえ緩和は免れず、欧州議会は11月13日の本議会でCSDRとCSDDDの簡素化で合意に達し、18日にも最終決定の方向となった。

2025年11月13日、ベルギー・ブリュッセルで開催された欧州議会本会議において、10月の欧州理事会会合の結果を評価する討論で発言する、欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエン
写真=EPA/時事通信フォト
2025年11月13日、ベルギー・ブリュッセルで開催された欧州議会本会議において、10月の欧州理事会会合の結果を評価する討論で発言する、欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエン

一方で、大企業を中心に、CSDDDやCSRDへの対応を進めている企業も少なくない。そうした企業にとっては、典型的な埋没費用が発生したことになる。それでも、将来にわたって多大なコストを負担するくらいなら、規制が緩和されるほうが好都合だろう。ただしESG規制そのものは撤廃されないため、企業は相応のコストを負担し続ける。