※本稿は、大愚元勝『仕事も人間関係もうまくいく離れる力』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
「違う自分を演じる」ことほどつらいことはない
みなさんにはそれぞれ、「こういう自分になりたい」という理想像があるでしょう。それはいいことです。そこに向かって、自分の実力を上げていこうという努力がうながされますからね。
けれども、その理想像が「こういうふうに見られたい!」になってしまうと、とたんに苦しくなります。
なぜなら「自分の目」ではなく「人や世間の目」を基準に、自分の理想像を思い描き、追い求めることになるからです。
それは自分の望む理想像でしょうか。そこを冷静に判断して、世間的な価値観と距離を置かないと、自分自身を見失ってしまいます。
その結果、どうなるでしょうか。見栄を張って、自分の外側を飾り立て、本当の自分とはまったく違う自分を「演じる」ことになります。そうやって自分を偽るほど、苦しいことはありません。
昔、ポルシェに乗って、颯爽とお寺にやってくるお檀家さんがおられました。周囲はそこだけを見て、「ポルシェを乗り回すなんてかっこいいな。お金持ちなんだな」とうらやみました。そういうふうに反応してもらえることが、彼の狙いでもあったのでしょう。
ところがお母さんが亡くなり、法事でご自宅にうかがって、私は悲しくなりました。失礼ながら、当時でもめずらしいくらいボロボロの長屋の家に住んでいらしたのです。
好きでポルシェに乗っているならいいけれど、彼の場合、ただの見栄っ張りでした。自分を現実よりずっと大きく見せたかったのでしょう。外で一生懸命カッコつけていた彼は、常に無理をして、見栄を張って、気を抜く間もない苦しみに陥っていたようでした。
そんなことにエネルギーを使うのは、無駄でしかありません。自分がなりたい自分になるよう、実力を身につけ、磨くほうがよほど大切なことなのです。

