国内最大級の巨大再開発「六本木ヒルズ」の完成から10年。森ビルは「不可能」といわれた再開発を次々と実現してきた。その道筋は1人のカリスマから組織に受け継がれつつある――。
外資金融も納得した、最高評価の防災設備
2003年4月25日に開業した六本木ヒルズは、54階建の森タワーを中心に11.6ヘクタールの広さを持つ「都市の中に作られた都市」として誕生した。今も当時も森タワーに入居する8割が外資系企業であるように、それは当初から「世界」を意識した高層ビルだった。
六本木ヒルズは彼らのどのようなニーズに応えようとしたのだろうか。森タワーの43階から48階に入居するゴールドマン・サックスの例を見てみよう。
米国系の金融機関であるゴールドマン・サックスの日本支社は、もともとアークヒルズに入居していた。しかし、90年代の後半になると、日本での事業が徐々に拡大したことで、あらたなオフィスを探す必要に迫られる。そのとき、開発段階から俎上に載せられたのが六本木ヒルズだった。
「マーケットリサーチを開始したのは98年のことでした」と同社の玉井一久コーポレートサービス・アンド・リアルエステート部長は話す。
「世界中の金融マーケットで大きなポジションを抱える我々は、1分1秒たりともマーケットに参加できない時間を持つことはできません。よってオフィスにはトレーディングフロアのインフラを賄える広さ、そして、2重3重の電源を兼ね備えた高い安全性が求められます。こうした条件を満たす物件は世界的にも少なく、たとえばニューヨークの本社ビルは自社で建設したものです。しかし日本では自社ビルを建設するわけにはいかないため、大型でかつ条件に見合った貸しビルを探す必要があったんです」
そこで同社は米国の調査会社に依頼し、丸の内、大手町、汐留、品川、六本木などの大型物件を評価した。そのなかで、「データセンター並み」という最も高い評価を得たのが六本木ヒルズ森タワーであったという。