例えば、森ビルはオフィスを除く入居テナントに対して、「文化都心」をコンセプトとした六本木ヒルズの「ブランドブック」を配っている。すべてのスタッフはこの「ブランドブック」をもとに必ず1度は研修を受け、それぞれが街づくりに参画する一員であることを森ビル側からのメッセージとして伝えられている。
タウンマネジメント事業部の家田玲子担当部長は言う。
「ブランドブックは施設の関係者と話し合いながら作り上げた『街の解説書』です。住宅にしてもテナントにしても、今までいた人と新しく入ってきた人は背景も価値観も異なる。その1人ひとりに同じ価値観を共有してもらい、私たちがこの街で実現しようとしたことを受け継いでいくのが目的です」
辻は2001年にタウンマネジメント事業部を立ち上げた際、各施設に「六本木ヒルズがあってのテナントであること」を徹底して伝えたと続ける。
「これまでの日本の貸しビル業はあくまでも『場所貸し』であり、店舗はどの施設でも同じように事業を展開していました。私たちが目指したのは、その前提を根本から変えること。例えば六本木ヒルズには世界的ホテルチェーンのハイアットが入居しています。彼らからすれば『ハイアットがあっての六本木ヒルズ』という思いがあったでしょう。しかし、私たちはそれを逆に考えてほしいと当初から伝えてきたんです。街とは本来、様々な施設や人が複雑に絡み合うもの。そのとき、それぞれの施設や店舗という『タテ』だけではなく、街という『ヨコ』の軸でとらえる。そのうえでイベントやコミュニティの場を作り上げ、都市を生き生きと活性化させる。それがタウンマネジメントの重要な考え方なんです」
東京国際映画祭、町内会を主体としたお祭りや青果市、アートイベントの開催に最上階の美術館での展示、街全体を利用した「ヒルズジャック」と呼ばれる企業PR……。六本木ヒルズではこの10年の間、街ぐるみのイベントが頻繁に催されてきた。