実は、会計を学ぶうえでの原点はいつの時代も変わらない――「カネはどこにあるのか」だ。こうしたカネの動き、「キャッシュフロー」が会計学でも重視されるようになっているのは原点回帰の動きといっていい。
今回挙げた『稲盛和夫の実学』では、こうしたキャッシュベースの考え方が具体的かつシンプルな手法とともに提唱される。例えば、1つ1つのモノの動きと伝票処理を明確に対応させる「1対1対応の原則」や“売り上げを最大に、経費を最小に”に根ざす「筋肉質経営の原則」など。原始的な考え方のようだが、こうした積み重ねが、会社の数字をリアルに見極めるのにつながるのだ。
稲盛氏が語るように、会計学がキャッシュと切り離された決算上の利益を計算するものでしかないなら、無用の学問になりかねない。会計や数字の知識はビジネスに役立ててナンボ。他の2冊も“稼ぐ力”を養ううえで役立つ実用書を選んだ。
また今後ビジネスで生き残るためには上司として部下をどう導くかが問われてくる。だが感情論では何も伝わらない。カネの動きを論理的に教えていくことが重要だ。グローバル化した組織の人材教育においても、世界共通語である数字の知識が求められる場面は増えるに違いない。
■カリスマに学ぶ会計の原則
『稲盛和夫の実学 経営と会計』
稲盛和夫/日経ビジネス人文庫
京セラの創業者が「経営のための会計学」の原則を説く1冊。「キャッシュベース経営の原則」を柱に、不良資産や固定費の増加、予算制度の落とし穴など、利益を圧迫しがちなリスクに目を光らせ、具体的な対策を提示。“人に罪をつくらせない”ために現金の取り扱いを複数の人間で担当する「ダブルチェックの原則」など不正対策も参考になる。氏の経営手法たるアメーバー経営(小集団独立採算制度)についても、会計学に関連する「時間当たり採算制度」によって解説。組織内の業績測定のための管理会計のエッセンスも学べる。