新型iPadが話題になっている。どちらかといえば、私は本や雑誌を手にとって紙のページをめくりながら読みたいほうなのだが、時代の流れに合わせて先ごろ『裏会計学』というタイトルの電子書籍を出版した。この裏会計学とは、日々の生活で“トク”をするために会計の知識を応用していくスキルのようなものである。
たとえば、あなたがちょっとお洒落なイタリア料理のお店に出かけたとしよう。そのお店には3つのランチコースがあって、Aコースが1500円、Bコースが2500円、そしてCコースが3500円だったとする。このなかで一番トクなのはどれかを判断する際に活用する。
こうしたランチも含めてすべての商品の値段は、「固定費」「変動費」「利益」の3つから構成される。飲食店の固定費は、人件費、家賃、光熱費、広告宣伝費など。ランチでどのコースを選んでも、一人分の席のスペースである家賃は同じで、対応する店員の人件費も変わらない。固定費はどのコースにも同じ分だけかかっているわけだ。
また、飲食店ではどのコースでも同じ水準の利益率を設定しており、その分だけの利益と固定費を料金から差し引いたものが、肉や魚、野菜などの材料費や、特別な手間賃といった変動費に回されるのが普通なのだ。
仮にお客一人当たりの固定費を400円、利益率を25%としよう。Aコースの利益は「1500×0.25」で375円となる。そうすると変動費に回すことのできる金額は「1500-375-400」で725円という計算になる。同じようにBコースとCコースを計算していくと、前者は「2500-(2500×0.25)-400」で1475円、後者は「3500-(3500×0.25)-400」で2225円となる。
ここで腰をすえてじっくり考えてみよう。AコースとBコースの料金の差は「2500-1500」で1000円。それに対して両者の変動費の差は「1475-725」で750円でしかない。多少手間がかかったり、少々いい材料を使っているからといって、750円コストが高いものに1000円も高い代金を払う価値があるのだろうか。「差の250円に見合った特別な付加価値がある」と感じられるならば話は別だが、そうでなければAコースを選択したほうが賢いはずだ。
このように、モノの値段がどのような組み立てで決まっているのか、会計の知識を応用して見ていくことで、自分にとって有利な取引が行える。ちなみに、AコースとCコースでも検証しておこう。料金の差は「3500-1500」で2000円。その一方で変動費の差は「2225-725」で1500円しかなく、やはりAコースがトクということになる。
また、裏会計学における“会計リテラシー(活用能力)”の一つとして是非とも押さえていただきたいものが、統計データの捉え方である。国税庁の民間給与実態統計調査で「給与所得の平均値が412万円になった」などといわれると、それが実態のように思えてしまう。
しかし、平均値は全員が回答した合計額をその回答者数で割ったもの。極端な話、回答者が10人いて、5人が1000万円、残り5人が200万円であれば、平均値は「(5×1000+5×200)÷10」で600万円。とても実態を示したものとはいえないだろう。
回答した数値の小さいものから大きいものへ回答者を順番に並べ、その真ん中にくる数値を「中央値」というが、この数字が最も実態に近く、回答者が多い数値にもなることから「最頻値」とも呼ばれる。「皆さん平均でこれだけの金額を使っていますよ」といわれて割高のものを買わないことも、裏会計学での大切なポイントなのだ。