先ごろ政府は東京電力へ6894億円の追加支援を認定した(※雑誌掲載当時)。これで昨年11月の投入とあわせると、公的資金による支援の総額は1兆7003億円に達することになる。
東電は原発事故の補償問題や原発停止に伴う火力発電の燃料費の増加などで財務体質が著しく悪化しており、追加支援を受けることで債務超過に陥る事態を回避する。政府は公的資金注入によって、原発事故被害者への賠償金支払いが円滑に行われることを求める。
では、注入された公的資金は貸借対照表(B/S)上にどう反映されるのか。B/Sは左側の「資産」と、右側の「負債」「純資産」とに大きく区分される。注入される公的資金は、まず純資産のなかの「資本金」に組み込まれる。これで自己資本が増強される。と同時に、資産の「現金」に同額が計上され、左右がバランスする。
自己資本の改善には、出資金を増やす方法と、たくさん稼いで利益を計上していく方法がある。前者は体力アップのために注射でカンフル剤を打つようなもの。一方の後者は自ら体力をつけて筋力アップを図っているようなイメージといっていい。
カンフル剤といっても、前向きな設備投資に充てるため、新規の出資を募るのなら特に問題はない。しかし、経営が苦しくなった場合の注入はあくまでも緊急措置。一刻も早く“注射針”を抜けるよう、自助努力での財務体質の改善を図っていく必要がある。
ましてや今回のカンフル剤は公的資金なのだ。その原資は税金、つまり私たち国民のお金である。「1円たりとも無駄に使ってほしくはない。早く事業を立て直し、色(リターン)をつけてさっさと返還してほしい」というのが国民の気持ちだろう。
しかし、東電の現状はどうか。先に触れたように財務体質は悪化の一途をたどっているし、補償問題は解決のメドさえ立っていない。それなのにリストラが進んでいるようには見えない。
公的資金を注入することは、私たち国民が東電のスポンサー、大株主になることを意味する。そうであるのなら、東電の経営陣に対して「事業の立て直しにもっと汗をかけ。社内改革の手を緩めるな」と要望するのは当然の権利である。
とはいうものの、国民一人ひとりが東電に直接注文をつけるわけにはなかなかいかない。そこで大切なのが、公的資金の注入という形で税金を東電へ仲介する政府の役割である。橋渡しした以上、東電の経営を厳しく監視するのは義務といえる。
すでに政府は公的資金注入で東電の議決権を3分の2超まで取得し、経営監視体制を強化する意向を明らかにしている。経営責任を明確にするため、6月の株主総会で東電の取締役17人全員を退任させることを検討しており、退任の意思を表明している会長らには退職金の放棄を求める意向と伝えられる。
もし私が政府の役割を担うのなら、「公的資金返還までの期間を3年まで」などと期限を設けて、1年ごとの中期目標、四半期ごとの短期目標を提出させる。そして、四半期ごとに経営改善レポートを提出させ、進捗状況をチェックする。一部でも遅れが生じているようなら、すぐに改善策を講じるよう指導する。
ここで忘れてはならないポイントが一つある。それは「説明責任」だ。東電は政府に対して経営の現状や将来の見通しについて、きちんと説明する責任を負っている。そして、仲介役の政府は最終的な出資者である国民に対して、わかりやすく説明する責任があるのだ。
英語で金の収支を「説明する」は「account for」であり、「会計」を意味する英単語は「accounting」。つまり、会計と説明責任は密接な関係にあるのだ。このことを国民は決して忘れてはならない。