小泉今日子がアイドルになれなかった主婦・天野春子を演じるのが面白い。薬師丸ひろ子扮する女優・鈴鹿ひろ美の影武者=吹き替え歌手だった――という過去が明らかになる(小泉今日子と薬師丸ひろ子の80年代二大アイドルが1つのドラマで初共演を果たした)。
この回が放送された日に、件の楽曲『潮騒のメモリー』が天野春子名義で現実にCD発売されることが発表された。既に着うたランキング1位を獲得している。ドラマの中で叶えられなかった春子の夢が、この現実に達成されたのだ。しかも、それは歌手・小泉今日子の14年ぶりの新曲でもある。今年の『紅白歌合戦』に小泉が出演するのは確定したと言ってもいいだろう。
小泉今日子のみではない。ドラマ内のアイドルグループ・アメ横女学園の『暦の上ではディセンバー(※2)』は既に配信され、人気を呼んでいる。能年玲奈と橋本愛のユニット・潮騒のメモリーズも『紅白』に出演する公算は高い。今年の『紅白』は、あまちゃん組が占拠する事態となるだろう。『あまちゃん』は単にアイドルを描いたドラマではない。ドラマから現実にアイドルが、アイドルの楽曲が次々と輩出されている。アイドルとは何か? アイドルという虚構を演じることだ。影武者と実体、虚構と現実のテーマが『あまちゃん』には貫かれている。いや、ドラマ内の虚構(アイドル)をテコに現実を変革しようとする強い意志が見える。それがNHK朝ドラの制作陣によって、確信犯的に意図されていたことに、私は驚きを禁じえない。
アベノミクスは金融緩和と財政出動によって実体経済を回復しようとする。だが、一般大衆の好況感は満たされない。アマノミクスは単なる言葉遊びではない。ドラマ=虚構によって現実を活性化すること。寂れた海岸が『あまちゃん』の聖地に、地元の女の子たちが地元アイドルとして輝く。「観光海女は人を喜ばせるのが仕事」とアキの祖母・夏ばっぱは言った。アベノミクスからアマノミクスへ! ドラマ『あまちゃん』の大ヒットには、アイドルによる日本再生の鍵が隠されている。
※1:ロケ地となった岩手県久慈市の小袖海岸では、放送開始直後の4月20日より土日祝日の「マイカー乗り入れ規制」を始めた。放送終了後の10月末日まで続く予定。観光客は久慈駅からバスを利用して現地に向かう。
※2:劇中歌の『暦の上ではディセンバー』は6月29日に発売。一方、『潮騒のメモリー』は、7月20日の放送回で、音痴の鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)に代わり、天野春子(小泉今日子)が吹き替えていた事実が明かされるまで、発売が控えられていた。