「アマノミクス」が地元を活性化させる

私が放送開始から『あまちゃん』に着目したのは、それがNHK朝ドラ史上初のアイドルドラマだからである。アイドルが出演しているドラマという意味ではない。アイドルが重要なテーマになっているドラマなのだ。

冒頭は1984年、若き春子がアイドルになるため海辺の街から家出する。1984年は小泉今日子にとっても重要な年だ。デビュー3年目、海をテーマとした『渚のはいから人魚』で初めてオリコンで1位を獲得。キョンキョンがトップアイドルに輝いた年なのだ。

1984年で時間の停止した春子の部屋には、松田聖子やチェッカーズ等、80年代アイドルのポスターが貼られ、アイドルグッズがあふれている。娘・アキはその部屋に住み、いわばアイドルの文化継承を果たす。海女姿の彼女は、親友のユイ(橋本愛)と共に地元アイドルとして脚光を浴びる。これは“可愛すぎる海女”として数年前、実際に若き海女さんが人気者となったエピソードをモデルにしている。

アベノミクスならぬアマノミクスなる言葉を耳にするようになった。『あまちゃん』効果での景気浮揚を言う。ロケ地の岩手県久慈市には観光客が殺到して、交通規制する騒ぎに及んだ(※1)。地元の達増拓也岩手県知事はツイッター上でうれしい悲鳴を上げている。岩手のみではない。全国各地にアイドル的な海女さんが登場しているとテレビや週刊誌が盛んに報じている。こうした地元アイドルは既に十数年前から多数存在したが、『あまちゃん』によって広く注目を集めることになった。

ドラマは後半の東京編に突入、地元アイドルの代表としてアキは上京する。GMT47なるアイドルグループの一員となるのだ。これは明らかにAKB48のパロディだろう。プロデューサーの荒巻(古田新太)は秋元康をデフォルメしたようなキャラクターで怪演する。現在はAKB48に代表されるグループアイドルの全盛期だ。同グループのプロデューサーである秋元康は、1980年代半ば、おニャン子クラブの仕掛人として脚光を浴び、小泉今日子の『なんてったってアイドル』を作詞した。80年代と現在のアイドルブームをつなぐキーパーソンだ。そんなアイドルの歴史的人物に『あまちゃん』は批評的に介入する。アイドルというジャンルが歴史の厚みを持ったがゆえに、こうしたドラマが成立したとも言える。