東京・千駄ヶ谷の路地に、国内外から客が訪れる専門店がある。店内で販売しているのは、無地の白いTシャツだけ。2016年に「世界初の白T専門店」としてオープンした#FFFFFFT(シロティ)だ。流行の入れ替わりが激しいアパレル業界で、一線を画す店舗をつくった動機は何なのか。オーナーの夏目拓也さんに取材した――。

シンプルが故に奥が深い、二面性にやられた

夏も冬も1年間365日、白無地Tシャツ(白T)を着る。もちろん自宅のワードローブは、白無地Tシャツだらけ。20代で白Tにはまって以来、着用した型は数百型以上。コレクションは国内外のカットソーメーカー、ファストファッションから数万円のラグジュアリーブランド、希少なヴィンテージまで多岐にわたる。「途中から面倒になり数えなくなった」と本人は笑う。

夏目拓也(なつめ・たくや)。1982年、神奈川県生まれ
撮影=プレジデントオンライン編集部
夏目拓也(なつめ・たくや)。1982年、神奈川県生まれ

世界広しといえど、白Tについて知り尽くしている人物は「自分以上の人はいないという自負がある」と、自称「白Tハンター」の夏目拓也は言う。

「白Tと言うとシンプル、ベーシックというイメージを持つ人も多いと思いますが、突き詰めていくと白の色味、生地感、デザイン、シルエット、生産の背景に至るまで、実は様々な違いや個性を持っている。Tシャツごとに、ストーリーがある。究極のシンプルが故に、奥が深い。その二面性が魅力だと僕は思っています」と、白Tへの熱い思いを語る。

壁一面に白Tが並ぶ#FFFFFFTの店内
写真提供=#FFFFFFT
壁一面に白Tが並ぶ#FFFFFFTの店内

「世界初」の小さな専門店に行列

「自分にとって正装が白T」という夏目は、その偏愛が高じて、大手広告会社・博報堂の花形マーケターの職を退き、白無地Tシャツを生業にしてしまった。

2016年4月、一番の理解者であり白Tラバーでもある妻・華と、同じく白T愛好家の友人・月岡信哉の3人で、自らの「偏愛」を形にした専門店を東京・千駄ヶ谷にオープンした。店名は、白のカラーコードとTを組み合わせた「#FFFFFFT(シロティ)」だ。

16進数カラーコードでは、#FFFFFFが白、#000000が黒を表す
写真提供=#FFFFFFT
16進数カラーコードでは、#FFFFFFが白、#000000が黒を表す

千駄ヶ谷の住宅街の一角、週末だけ営業する小さな店が発信する「世界初」の斬新なコンセプトは、オープン当初からメディアやSNSで取り上げられ、客が店に押し寄せた。

この客の波は一過性に終わることなく、夏目の予想以上に年々大きくなっていった。5年前、店の経営に専念するため、会社から独立。10年目を迎えた今も、営業時間は土日の午後のみ、広告は一切出していないが、客足は途絶えることがない。20代から70代、日本全国から海外まで、客層は広がりを見せている。

だれもが何かに対して「好き」という感情は持っているだろう。しかし、それを生業にすることは難しい。夏目はどうやって白Tへの「偏愛」を、アパレルビジネスとしての成功につなげたのだろうか。