今、世界の政治に地殻変動が起こっている。各地で民主主義が後退し、反グローバル化や反移民を掲げる過激な主張が受けているのだ。なぜか。
「ソーシャルメディアと、インターネットの“集団分極化”が右派台頭の加速要因になっているのは確かだ」
ハーバード大学ロースクールの著名な法学者、キャス・サンスティーン教授はこう指摘する。同氏は2008年米大統領選で、画期的なデジタル戦略を展開したオバマ陣営の選挙戦に関わり、第1次オバマ政権下の09~12年には米行政管理予算局(OMB)の情報・規制問題担当官を務めた。
また、『#リパブリック:インターネットは民主主義になにをもたらすのか』(伊達尚美 訳、勁草書房)の著者でもあり、SNS問題に詳しい。『同調圧力:デモクラシーの社会心理学』(永井大輔・髙山裕二 訳、白水社)では、同調圧力により、社会が大きな間違いを犯しうると指摘している。
政治的議論の主戦場がネットに移るなか、欧州に始まり、米国、そして日本でも、極右政党は勢いを増している。過激な政治的主張はネット上でどのようにエスカレートし、有権者の心を掴むのか。サンスティーン教授に聞いた。
キャス・サンスティーン(Cass R. Sunstein)
ハーバード大学ロースクール教授。専門は憲法、行政法、法哲学、行動経済学など。オバマ政権では行政管理予算局・情報政策及び規制政策担当官を務めた。ノーベル経済学賞受賞者のリチャード・セイラーとの共著『NUDGE 実践 行動経済学完全版』(邦訳版、日経BP)は全米ベストセラー。

――インターネットは「過激思想の温床」だそうですね(『#リパブリック』第3章)。なぜですか。

まず、人間が陥りやすい「集団分極化」について話そう。例えば、気候変動否定派のグループがあるとする。同グループの平均的な人々は、「気候変動は存在しない」という程度の認識だ。しかし、グループ内で話し合うことで、「気候変動は『絶対に』存在しない」という強固な結論に至る。