身寄りがない一人暮らしの高齢者が増えている。社会学者で、葬送に関するサポートを行うNPO法人エンディングセンター理事長の井上治代さんは「身元保証や死後事務委任について少しずつ知られるようになってきたが、まだまだ実態を知らない人が多い」という――。

※本稿は、井上治代『おひとりさま時代の死に方』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

窓の外を見ている高齢者のシルエット
写真=iStock.com/Yaraslau Saulevich
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81歳女性が心臓発作、危険な状態に

日本では、入院に際して保証人が求められている。2016年のこと、首都圏にある医療機関のソーシャルワーカーから、エンディングセンターに電話が入った。

心臓発作で緊急入院した患者の皆川和子さん(仮名・81歳・未婚)が、「エンディングセンターの人に来てほしい」と言っていると。しかし、死後のことや入院時の身元保証の契約を結んでいなかった。それでも緊急入院だったので、私ともうひとりのスタッフが病院に向かった。

駆けつけてみると、皆川さんは集中治療室に入っていた。体調が悪かったので病院で検査を受けたら、そのまま入院になったという。皆川さんを見ると、毅然とし、集中治療室にいる患者には見えない。しかし心臓が悪く、血管がふさがってしまえば死に至る危ない状態であるという説明があった。そこで保証人が必要になったというわけである。

相続人になった甥は何もしてくれなった

私は病院のソーシャルワーカーに、「保証人というのは、本人が治療費を払えなかったときの金銭的な保証なのか、それとも亡くなったときのご遺体の引き取りですか」と聞くと、後者だという。一般的には「両方」なのだが、入院費に関しては入居していた施設の人からの説明で、預かり金がある様子であった。すぐに私は保証人の書類にサインをした。

実は皆川さんは、数年前にエンディングセンターと「死後サポート委任契約」を結んだ。しかし「甥が面倒を見てくれると言ってくれた」というので、契約を解除した。うれしかったのだろうか、未婚で子どものいない皆川さんは、甥を相続人にした遺言書を書いた。ところが、甥は子どもの行事で忙しいからと、何もやってくれなかった。

そのような事情をエンディングセンターに相談したいと考えていた矢先に、緊急入院となってしまった、というわけである。甥は皆川さんの入院に際しても関わろうという意志はみられなかったと、皆川さんが入居している高級高齢者施設の担当者が教えてくれた。