警視庁には「大使館リエゾン(連絡係)」という仕事がある。その実態とはどのようなものか。元警視庁公安部外事課で、「リエゾン」としての勤務経験がある勝丸円覚さんは「外交官が犯罪に巻き込まれた場合、現場の警察官との間には、捜査権といわゆる『外交特権』の摩擦があることに加え、語学力の壁がある。そこで双方の論理を知るリエゾンの出番となる」という――。

※本稿は、勝丸円覚『日本で唯一犯罪が許される場所』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

電話機
写真=iStock.com/Pavel Muravev
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東京に点在する小さな「外国」たち

港区に集中する大使館。その一つ一つが警察の捜査権が及ばない外交特権を持ち、それぞれの国の事情や特色で動いている。国によってはカウンターインテリジェンス(防諜)を意識した人員を揃えており、いわば、東京都内に点在する「外国」と言ってもいい。

なぜ、警視庁が大使館リエゾンという連絡係を設けているのかが、ここから見えてくる。なぜ外務省のみではなく、警察が大使館との接点を持つ必要があるのか。

第1に、これまで見てきたような「外交特権を悪用した犯罪」の存在がある。前回の記事でも触れたが、外務省は儀典官室が各国の外交官に対して理由を明かさずに「ペルソナ・ノン・グラータ」を告知できる力を持ってはいるが、犯罪捜査を行うことはできない。一方、警察は犯罪捜査はできるものの、大使館や公邸内には立ち入れず、外交官の身柄を拘束することもできない。互いに強みと弱みを持っている中で、大使館リエゾンはその間を補うような任を担っている。

警視庁外事課「リエゾン」の仕事とは

大使館に対し、防災・防犯のブリーフィングを行うのもリエゾンの仕事の一つだが、これは何が犯罪になるか、犯罪者はどのようなところを狙ってくるかという警察ならではの視点があってこそ可能となるものだ。外務省は日本の法令について一定程度、説明をすることは可能だが、国内の防災・防犯事例に詳しいわけではない。そこで警察の出番となる。

また、外交官がかかわる犯罪の場合、インターポールが登場するような国際犯罪につながる可能性もある。あるいは、各国大使館に詰めている、アメリカで言えばCIAやFBIのような情報機関や法執行機関との連携が必要な場合、窓口になるのは国の警察庁だが、大使館が所在するのは東京であることから、現場の対応は警視庁、それも外事課のリエゾンが担当することになる。連携する警察側にしても、外交特権を理解しているとは言い難い交通部や生活安全部、刑事部の捜査官が来たところで、捜査にしても連絡にしても効率が悪いのだ。