バングラデシュ版「ドラゴン桜」

【田原】授業は、どこでやったのですか。

【税所】パートナーであるマヒーンの出身村でやりました。「うちの村には自分より頭のいいやつがたくさんいたのに、多くは貧乏で予備校に行けず、受験できなかった」というのが、彼が協力してくれた理由でしたから。

【田原】予備校に通うのに、そんなにお金がかかるのですか。

【税所】予備校へ半年間行くと5万円ぐらいかかります。ダッカの平均月収は2万円。村だと月収5000円ですから、1年の稼ぎのほとんどを注ぎ込まないと子どもを予備校に通わせることもできない。大学に合格できるのは、一部のお金持ちだけです。

【田原】その格差を解消するために、新しいタイプの予備校をつくったわけだ。生徒は、どれくらい集まったの?

【税所】無料で都会の予備校と同じ授業を受けられると口コミで宣伝したら、約30人の受験生が集まりました。そのうち女性は10人。これはムスリムの村では画期的なこと。女性は高校に行けば十分で、予備校に通わせるのはもってのほかという家庭が大半なので。

【田原】手ごたえはどうだった?

【税所】みんなパソコンにさわった経験がなかったので、最初は面白がっていました。ただ、村の子どもたちは自己肯定感が低くて、自分が本当に大学に行けると本気では信じていません。だから1カ月くらいで急に人が減ってきてしまって。このままじゃ誰もこなくなると思い、バスを借りてみんなをダッカ大学に連れていきました。いい刺激になったみたいで、帰ってきてからは出席率も向上しました。

【田原】大学を見たくらいで、そんなに変わるかな。

【税所】大学生たちの様子が励みになったみたいです。村だと男の子と女の子が会話する機会はありません。しかし、ダッカ大学では男女が仲良く話している。その様子を見て、みんな「ここに入りたい」と思ったようです(笑)。

【田原】帰ってからは順調だったの?

【税所】はい。ただ、停電には悩まされました。バングラデシュは電力事情が悪くて、夏場になると1日5、6回は停電します。そうなるとパソコンも使いものになりません。途中からディーゼルのジェネレータを入れたのですが、こんどは音がうるさくて勉強に集中できない。最終的には充電池を使って対応できるようになったのですが、それまでは大変でした。

【田原】1期生の成績はどうでしたか。

【税所】30人のうちほぼ全員が受験して、そのうち1人がダッカ大学に入学。その彼を含め、18人が大学に合格しました。おかげさまで新聞に取材に来てもらえるくらいに話題になって。現地紙も入れて7紙から取材を受けて紙面に取りあげてもらえました。