死者の魂を自身に憑依させ、その言葉を伝える女性の霊媒師「イタコ」が、消滅の危機に直面している。いま青森県内で活動しているのは6人だけ。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「イタコは盲目であるため、巫術ふじゅつは口伝で承継されてきた。そのため資料がない。イタコが途絶えれば、巫術も永遠に失われてしまう」という――。
撮影=鵜飼秀徳
硫黄臭が立ち込める恐山の岩場地帯

女性の霊媒師「イタコ」が消滅の危機に直面している

岩肌からシュー、シューと火山ガスが吹き出している。湖を吹き渡る風が、赤い風車をカラカラカラ……と鳴らす。湖岸に風車を立て、一心に手を合わせる中年の夫婦がいた。わが子を亡くしたのだろうか。夫婦が去った後には、線香とヤクルトが3本、供えてあった。

青森県下北半島、恐山。そこは死者の魂が集う場所である。荒涼とした風景は地獄にも例えられてきた。東北には古くから、生と死は地続きだとする死生観が根付いている。「彼岸」に踏み入れることのできる場所のひとつが恐山なのである。私は10月三連休の秋大祭の折、恐山に参拝するとともに、青森各地に足を向けた。

撮影=鵜飼秀徳
恐山全景

目的はイタコに会いにいくためである。