交渉や商談の際、あいさつもそこそこに本題に入ろうとする人がいる。ミュンヘン・ビジネススクールのジャック・ナシャー教授は「単刀直入に話を始める人は交渉で失敗しやすい。感じのいい雑談をするだけで、相手が譲歩してくれる可能性は高くなる」と指摘する――。

※本稿は、ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』(早川書房)の一部を再編集したものです。

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映画に出てくる交渉マンなら「嫌味で冷酷」だが……

自分の要求を容赦なく相手に突きつけ、そして狙いどおりのものを手に入れるピンストライプのスーツを着た嫌味な人物。こうした交渉担当の冷酷なビジネスマンのイメージを私たちに植えつけたのはハリウッド映画だ。

だがそういう映画のストーリーを書く脚本家の収入は、映画業界のなかではお世辞にも多いほうとはいえない。映画にかかわるクリエイティブな仕事をしている人々のなかで、もっとも労働契約条件が悪いのは脚本家だ。つまり、脚本家は交渉が不得手なのである。皮肉なものだ。

交渉相手とはよい関係を築いたほうが、交渉の成果は上がりやすい。その理由を知りたければ、自分自身にこう問いかけてみるといい。交渉においてあなたが寛大になれるのは、好感のもてる相手に対してだろうか? それともあまり好感のもてない相手に対してだろうか?

関係性のよさが重要な理由はしごく単純だ。私たちは、なんの関係もない相手に対しては、よい関係を築けている相手に対してよりもずっと攻撃的になるからだ。